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拾われた日 (5/5)





分霊箱を生成する時の痛みや苦しみは凄まじいものだ。

ミアを宙に浮かせながら自室に戻り、ミアをソファに下してその隣に深々と腰かけた。


「はあー…」


その場で意識が飛ばないようになっただけだいぶマシにはなったようだが…やはり、キツい。

分裂させた己の魂の一部は今、呑気に眠りこけているミアに宿っている。
こいつを"箱"に選んだことに特に理由はなかった。
先日部下が捕えてきたマグルを次の分霊箱の贄にすることは決めていたのだが、その入れ物を何にするか悩んでいた。

その時に森で出会ったのが、この美しい大蛇。
光に当たれば時折エメラルドに輝くその身体、今閉じられているあの瞼の下には金色に輝く鋭くも大きな瞳がある。

蛇にしては随分と表情豊かで感情も分かりやすい奴だ。
退屈しのぎにもなる良い入れ物を見つけた、とわずかに口角を上げた。






いつもならばまだ寝るような時間ではなかったが、今日は心底疲れているようだ。
鉛のように重い身体をベッドへと沈めると、ものの数分で意識は消え失せた。

眠りについてどれくらい経っただろうか。
夢見の悪さと何かの気配と物音を感じて、意識が浮上していく。

目を開けてまず最初に視界に入ってきたのは、女の顔。


「…誰だ」


これにはさすがに驚いた。
この部屋には私以外が入ろうとすれば術がかかるようになっている。相当な命知らずでなければ、部下共が許可なく私の部屋に近づこうとはしないだろう…だが部外者とも考えにくい。

とりあえず始末するか、と枕元に置いた杖を女に向ける。


「ヴォルデ、モート様…」
「……!」


そのような寝言を放ち、小さく笑う女に呪文を放つのを躊躇った。


「おまえは…」


呟いて、思考を巡らせる。
最初に頭に浮かんだのはミアだ。

ミアは、普通の蛇とはどこか違っていた。
やけに人間らしく、それこそネズミすらあのままでは食べられないと駄々をこねていたほどに。

もしや、こいつはまさか。
そう考え付いて、私はベッドから抜け出し、ミアを寝かせておいたソファを見に行った。…しかしそこに奴の姿はない。

寝室へ戻りベッドに腰掛けて、女を観察してみれば、ベッドの上で小さく丸くなりスヤスヤと寝息を立てている。

髪は色素の薄いブラウンで、身体は小さい。
白い薄手のワンピースに身を包んだ彼女の胸元からは何かの傷痕が見え隠れしていた。

蛇のミアに似ている要素がひとつもない外見だが、何故かどことなく、ミアに似ていると直観的に思った。


「おまえは、ミアなのか?」


サラリ、と手触りの良い髪をひと撫ですれば彼女の表情に笑みが浮かぶ。
あいつも、ミアも頭に手を乗せてやれば嬉しそうに表情を柔らかくしていたことを思い出した。

…まあいい。
明日にでも直接ミアに聞けばいいだけのこと。
小さく溜め息をついて、ベッドの中へと戻る。

見るからに怪しい女の隣で再び寝ようなどと思ったのは、この女がミアであるという不明確な…それでいて確かな確信があったからなのかもしれない。

今まで感じたことのない温もりがやけに気になってすぐには寝つけなかったが、不思議と嫌悪を抱くことはなかった。