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拾われた日 (4/5)




夢を見ました。
これが夢なのかは定かではありませんが。

茶色い古い建物、緑色の木々。
そして外で走り回る子供たちの姿が見えます。
此処は…何かの施設のようです。

フワフワと意識だけ浮かんでいるような感覚でその施設の中に入ると、子供たちの会話が聞こえてきました。


『あいつ本当に気持ち悪いよな』
『たまに目が赤くなるし』
『この間なんか蛇と喋ってた』
『やっぱり頭おかしいんだよ』


誰のことを話しているのかは分かりませんが、聞いていて良い気持ちにはならない内容です。
蛇と話せる、なんてヴォルデモート様のようでとても素晴らしい能力だと思いますのに。

場所が変わり、今度はメイド服のようなものを着た大人の女性がコソコソと小声で話をしています。


『もうあの子は、この孤児院では手に負えない』
『この間はジャックの飼っていた兎を逆さ吊りなんかにして…』
『普通の子供じゃないわ』
『恐ろしい。できるなら関わりたくない』


一体、誰のことを話しているのでしょう。
さっき子供たちが話していた人と同一人物なのでしょうか。

また浮いて、廊下に出ると1人の子供がそこに立っていました。
黒い髪に青白い肌、そして赤く染まった瞳をギラリと鋭くさせて女性達を睨みつけています。

わたしはその子供に、既視感を覚えました。
―…この子は、ヴォルデモート様。
直感的にそう思ったのです。


『親がいないからなんだ』
『愛されていないからなんだ』
『愛なんて知らない、要らない』
『僕は特別なんだ』
『僕は1人でも生きていける』
『他人なんて、信じるものか』


呟くようにそう吐き捨てて、ベッドの上で蹲る彼の姿に…ギュッと胸が痛みます。

そして、あの地下室で殺人を犯したヴォルデモート様を思い浮かべました。
殺人は罪です。彼が良くないことをしているのは分かっています。

ですが、わたしには彼を否定することはできません。
それは、彼が心から本当に悪い人ではないということを知ってしまっているからに他ならないのです。

ヴォルデモート様はわたしに、自分の魂の一部をくれると仰って何かの術を施しました。
そしてきっと、わたしの中には既に彼の魂が息づいているのでしょう。

ならばわたしがヴォルデモート様にできることは。
孤独に生きる彼が少しでも寂しくならないように傍にいることと、わたしの中にある彼の魂を大切に生きていくこと。

何故、出会ったばかりである彼の傍にいたいと思うのかはわたし自身も分かりません。
ただ、ヴォルデモート様はわたしの命の恩人。
…そして彼のあの優しい手に触れてもらえなくなるのを嫌だと思ってしまうのです。




「(ヴォルデモート様、)」


思わず呟けば、視界が真っ白になって眩しくて目を瞑ります。
そして、次に目を開けた時には見慣れた座り心地の良い赤黒いソファの上にいました。

あの地下室からここまで自分の力で戻ってきた記憶はありません。
ということはどなたかが運んでくれたということ?

どなたか、と言いますがわたしの中ではヴォルデモート様以外はありえません。
そういえば彼はどこにいるのでしょうか。

スルリとソファから身を下ろして、床を滑るように移動していきます。
1人で部屋から出るのは怖いので、外には出ずに部屋の中を探索してみることに。



最初に入った時には気づきませんでしたが、とても広いお部屋です。
ヘビなので視界がとても低いですが、こんなに低い視点から見る景色も新鮮でなんだか楽しくなってきました。

わたしが今人間の姿ならばきっと鼻唄をうたっていることでしょう。


「(ん?あそこに扉が…)」


部屋の散歩を楽しんでいると部屋の奥の方に、出口とは違う扉があるのを発見しました。
よく見るとその扉は開いているようです。

勝手に見て回るのはいけないと思っていながらも、好奇心には抗えません。
わたしはなるべく物音を立てないように身体を床にすりながら、その開いている扉の部屋へと入り込みました。


「(あ…、)」


その部屋はとても殺風景な内装をしていました。
真ん中に大きなキングサイズのベッドに、閉じられた窓の側には小さなデスクがあり、壁際には本棚がいくつか置かれていてたくさんの分厚い本が並んでいます。

カーテンの閉められていない窓の外には金色の三日月が見えることから、今は夜だということが分かりました。
そしてここは、どうやらヴォルデモート様の私室(寝室)のようですね。


「う、…ぐっ」


その証拠に、小さな呻き声に導かれてベッドの上を見てみると、寝間着に着替えたヴォルデモート様が寝ているのが見えました。

彼の青白い肌にはプツプツと汗が滲み、眉間には深く皺が刻まれています。
呼吸も少し乱れていて、魘されているようでした。

とても苦しそう…しかしただのヘビであるわたしには彼の苦しみを和らげてあげるようなことは何もできません。
せめて、このわたしの体温だけでも感じてくだされば。

失礼とは思いながらもスルスルとベッドに上がり、横向きに寝るヴォルデモート様の背中にピタリと身体を寄り添わせて丸くなりました。


「(わたしがお傍にいます。ヴォルデモート様)」


きっと、この行動はヴォルデモート様の為を思っていながらも結局は自分の為でもあるのだと思います。

死んでしまって、独りになって。その寂しさ故に"わたしが"ヴォルデモート様に甘えてしまっている。
ですが、わたしがヴォルデモート様のお傍にいたいと願うのはそれだけではないということだけはハッキリと言えるのです。

何故、と聞かれればきちんとした理由が出てきてくれないのがとてももどかしいですが…それでも願わくば、時間の許す限りヴォルデモート様のお傍で生きていきたいなんて。

その時、不意にヴォルデモート様がこちらを向きました。
目は閉じられてるので起きたわけではないようです。
それから彼は、今日何回もしてくれたように、わたしの頭にそっと手を乗せてくれました。


「(あったかいです…)」


ヴォルデモート様の少し低めの温もりを感じながら、スッと目を閉じます。
次の日また、彼の声を聴けるのを楽しみにしながらわたしは眠りにつきました。



(Date picked up)


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