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今度こそ、と思った。
どれくらい前から、そう心に決めていただろう。


『わたしと、ダンスパーティーに行ってくれませんか…!』


泣きながら廊下を走っている今から数分前、わたしは最大限の勇気を振り絞ってそう声をかけた。


『あー…えっと、ごめん。ナマエ』


ダメ元だと、断られる可能性の方が高いと。
そう覚悟はしていたのに、実際にこうして断られてしまったら悲しくて、ショックで仕方なくなってしまった。


『ナマエ…!待って、!』


その場に、セドリックの前にいることができなくなって逃げ出して。
そんなわたしを呼び止めようとする彼の声に、さらに胸が締め付けられた。

廊下を走るなと途中で先生に怒られても脇目も振らず走る。
…今はただ、1人になりたかった。

さすがに走り過ぎてしまったのか、泣いていたのもあってすごく息苦しくなって立ち止まる。


「うっ、はあ…はあ」


あまりの息苦しさに少しの吐き気も出てきて、フラリとふらついた身体を壁に手をついて支えた。
しかし、手に触れた壁は何かおかしい。


「え、なにこれ…」


ゴゴゴ、と音を立ててまるで生き物のように動く壁は気付けば1つの扉が出来上がっていた。

これは、もしかして必要の部屋?
本で読んだこともあったしホグワーツのどこかにその部屋があるということも知っていたけれど、実際に見るのは初めてだ。

…ここなら、誰にも見つからずに1人になれるかもしれない。
自然と開く扉に導かれて、わたしは必要の部屋へと足を踏み込んだ。




中は、実家のわたしの部屋によく似ていた。
よたよたとゆっくり進む足はベッドへと向かい、そのままボフンと顔からダイブする。


「……はあ」


枕に顔を埋めながら、色んなことを思い出していた。

レイブンクロー生は学習意欲が高く、とても勤勉で博識な傾向がある。
3年前にこのホグワーツに入学し、父と母と同じくレイブンクローへと組み分けされたわたしも例に漏れずその傾向にあった。

時間があれば図書室に籠っていた為、別の寮の友人からは『貴女は将来、本と結婚する気?』なんてよくからかわれていた。

本と結婚、それもいいかな。
そんなことを考えていたわたしはある日、通い詰めた図書室で初めて本以外に惹かれ、そして恋をした。


『それを調べたいなら、これがおススメだよ。…って、レイブンクローの君には要らないアドバイスだったかな』


奇跡的なことに、声をかけてくれたのはセドリックからだった。
わたしがレポートで行き詰っていることに気付いて声をかけてくれたらしい。

恥ずかしそうに笑う彼に、目を奪われて。
それからはよく図書室で一緒に勉強したり本を読んだりするようになり、そのうちにどんどんセドリックのことを好きになっていった。

彼はあの人柄だからとても友人は多いし、それに何よりモテる。たまに見かける彼は、わたしに向けるものと同じ優しく柔らかい笑顔で他の人たちにも向けていた。
その時点で、ああ脈ナシかななんて思ったりもしてたけれど…。

もう4年近く片思いをしているわけだし、踏ん切りをつけるためにもと思い、もし、ダンスパーティーに誘ってOKをもらえたらこの想いを伝えようと決めていた。
結果、OKをもらうことはできず想いを伝えることもできなかった。


「……寝よう」


とりあえずこのぐちゃぐちゃな思考を落ち着かせて、整理する必要がある。
ローブを脱ぎ、ネクタイをほどいて本格的にベッドに横になった。

目が覚めて、またセドリックと顔を合わせる時はいつも通り接せるようになれたらいい。




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