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□□□

パチリ、と。
今まで寝ていたのが嘘のようにいきなり目が覚めた。

そして、目を開けて最初に飛び込んできたのは綺麗なグレーの瞳。


「………」
「ナマエ、」
「…え、えっ…!?な、なんっ、で…!?」


今まで生きてきてこれほど驚いたことはない。
だって目の前にはさっきわたしがフラれたばかりの想い人がいる。これに驚かないでいられるわけがない。

わたしは文字通り飛び上がって、素早くセドリックから距離をとった。


「は、え?待って、ほんとに…意味わかんない」
「ナマエのことを探してたら、急にこの部屋が現れて…中に入ったら君が寝てるのを見つけたんだ」


頭の中を整理したくて仮眠したのに、起きてすぐにこんなことになったら、もっとごちゃごちゃになる。

目が覚めたらセドリックと普通に接したいとは思ったけど、目覚めてすぐこんな状況になるなんて思いもしない。


「ナマエ…」
「………っ」


わたしを呼ぶセドリックの声が、いつもと変わらず優しいから。

じわり、と止まったはずの涙がまた溢れてきてしまい、手に持った枕を顔に押し付けてそれを隠した。


「ご、めん。なんでここにセドリックがいるのか分からない…けど。わたし、まだ気持ちの整理がついてないから。もう行くね」
「待って…!」
「…痛っ」
「あ…ごめんナマエ!でも、お願いだ。僕から逃げないでほしい」


そそくさと部屋から出ようとするわたしの手を、セドリックの強い力に引き留められた。

けっこう痛かったけど、振り向いた時に見えたセドリックの表情があまりにも切なげで…わたしの足は床に縫い付けられたようにして動けなくなる。


「ナマエは、勘違いしてると思う」
「……っ?」
「君は、僕に断られたと思ってるだろう?でもそれは、違うんだ」
「違うって…。だってセドリック、ごめんって…」
「あーそれは、断ったわけじゃなくて…」


わたしの手を握ったまま、セドリックは近くの椅子に腰かけてわたしを見上げてくる。
その頬は少しだけ赤く色づいていて、ドキリと胸が高鳴った。


「僕も、ダンスパーティーにはナマエを誘おうって決めてたんだ」
「……えっ」
「だけど僕から誘う前に君が誘ってくれて、それはすごく嬉しかった。でもほら、なんていうか…僕から誘いたかったっていうか」
「…うん」
「だから、あの時の言葉には続きがあってさ。”ごめん、ナマエ。それは僕から誘わせて”って言いたかったんだ」


勘違いさせてごめん。
そう続けて申し訳なさそうに眉尻を下げるセドリック。

セドリックは最初から、わたしを誘おうとしてくれていた。
その事実が、嬉しすぎて。今度は別の意味で涙腺が緩みそうになるのを必死に堪える。


「…っそんなの、普通に勘違いするよ。断られたって」
「君を悲しませて本当にごめん。…好きな子を泣かせるなんて、最低だな僕は」


ボソリと発せられたセドリックの呟きは、ハッキリとわたしの耳に届いていた。

今、セドリックはなんて…?
いや、ここでまた勘違いしたらそれほど恥ずかしいことはない。セドリックが言う好きな子は、わたしじゃない。きっと。


「ナマエ、抱き締めてもいい?」
「…は、えっ…?」
「嫌だったら突き飛ばしていいから」


握られたままの腕をグッと引かれて、そのままセドリックに優しく抱き締められる。
今までこんなに彼と密着したことなんてあっただろうか。いや、そんなことあるわけがない。

ドキドキと心臓が飛び出てしまいそうなくらい速くなる鼓動。
そしてぐんぐんと上昇していく体温に、くらりと眩暈がした。


「―…僕は、ナマエのことが好きなんだ」
「……ッ!」


熱っぽい声と吐息と共に、耳元で囁かれた言葉。


「だから、僕と一緒にダンスパーティーへ行ってくれないか?」


嬉しくて、嬉しすぎて。胸がいっぱいで。
コクコクと必死に首を縦に何回も振って頷くと、セドリックが小さく笑ったのが分かる。

こんな夢みたいなことってある?
もしかしてわたし、本当はまだ寝てて、これは夢とか。


「セドリック、わたしの頬を抓ってみてくれる…?」
「そんなことしなくても大丈夫。全部本当のことだよ」


優しくて柔らかい、癒されるようなセドリックの声。
そしてその声は少し不安げな声音に変わり、わたしの鼓膜を震わせた。


「ねえ、ナマエは僕のこと…どう思ってる?」
「…言わなくても、分かってるでしょう」
「そうかなって思うけど、やっぱり君から聞きたい」


ちょっと拗ねたようなセドリックに、今度はわたしが小さく笑う。
そして、彼の耳にそっと顔を近づけて同じ想いを囁いた。

”わたしも、セドリックのことが大好き”


「………」
「ねえ、セドリック」
「…言わないで」
「顔が赤、っ」


唐突に、わたしの唇に触れたセドリックのそれ。
バッと反射的に自分の口を手で覆うと、目の前の彼は『ナマエの顔、リンゴみたいに真っ赤だ』と少しだけ意地悪そうに笑う。

唇に残る柔らかい感触は、今のこの状況を夢ではないと実感させてくれた。
もう一度、今度は小さい声じゃなくハッキリとセドリックの目をきちんと見ながら想いを伝えれば。


「それ、反則…!」


と言ってわたしが手に持っていた枕に顔を埋めていた。

そんなセドリックにわたしがまた笑っていると、不意打ちで2回目のキスが降ってきた。


「そっちの方が反則じゃん…」




初恋が実る確率
(それはきっと奇跡に等しい)



アンケートのコメントにてリクエストいただきました!
・必要の部屋でセドリックに愛を囁かれる鷲寮ヒロイン



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