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君しか見えない [ 5/6 ]



魔法薬学の授業で怪我したルーヴェントを医務室へ連れて行って、チョコをもらったあの日から。
僕と彼女の接点は劇的に増えた。


「あ、ルーピン。おはよう」
「おはよう。これこの間のホグズミードの時に買ってきたんだけど、買いすぎちゃったからあげるよ」
「え!これ数量限定の幻のライスチョコ!?」


いつ行っても売り切れで買えなかったやつだ、と目をキラキラさせてチョコの入った袋を惚けたように眺めている彼女。

隣で僕を睨みつけるグラハムなんて無視無視。


「そうだ。今度のホグズミード、一緒に行かない?」
「…え、!」
「はあ!?ダメダメ!ルカ、あたしといつも一緒に行ってるじゃん!」


ギャアギャア騒ぐグラハムのうるささなんて今の僕には聞こえない。

ルーヴェントから、ホグズミードに誘われた…。
でも、ジェームズ情報によると彼女って確か今付き合ってる人がいるんじゃなかっただろうか。


「アシュリーとはいつも一緒に行きすぎてるし、たまには違う人とも行きたいんだよ。今回は諦めて。まあ、ルーピンが了承してくれたらだけど…」
「…行く。絶対行く」
「お、ほんと?よし!これでチョコ巡りできる!」


この際、彼女に恋人がいようがいまいが構うものか。
僕はこのチャンスを無駄にしないことだけを考えなければ。


「アランに言いつけてやるー!」
「勝手にすれば。アランはそんな細かいことでグチグチ言わないし心の広い人だもの」
「キーッ!」


ルーヴェントから初めて聞いた、恋人であるアラン・クロスリードの名前。
彼を心の広い人だと言ったルーヴェントの表情は柔らかい。

ツキンと胸に鋭い痛みが走った気がした。


「ホグズミード、楽しみー。ね、ルーピン」
「…え、あ!そう、だね」


僕に向けられた彼女のこの笑顔は、すでに他の誰かのものなのだと考えたら少し苦しくなった。

でも、諦めないって決めたから。
アラン・クロスリードには悪いけど、ルーヴェントがいつか僕に振り向いてくれる時がくるように精一杯頑張らせてもらうことにしよう。



***


一か月後。僕とルーヴェントは約束通り、2人きりでホグズミードへと来ていた。

2人きりと言っても、ジェームズやシリウスが透明マントに隠れてあとをつけてきてるのは確実だけど。


「よし、ルーピン。今日はとことんチョコと戯れよう。鼻血噴射覚悟で!」


グッと小さな両手に握り拳を作ったルーヴェントに、僕はクスクスと笑いを零す。

今日の彼女の格好は、一言で言えばクールビューティー。
腰まで伸びたミルクティーの長髪は高い位置で一本に結われており、濃すぎない化粧が彼女の良さを引き立てている。
黒のスキニーパンツが足の長さを際立たせ、それでも僕より身長の低い彼女は可愛らしくも見えた。

これだけ大勢の女性がいるのに、ルーヴェントの周りだけ花が咲いているように輝かしく見えるのは言わずもがな僕が彼女に恋しているからだろう。


「ルーヴェント、」
「んー?」
「…はぐれるといけないから」


そっと、彼女の冷たくなった手に触れてみた。

振り払われるかな、とか不安に思ったけどルーヴェントは小さな力でキュッと握り返してくれる。
ハッとして彼女を見ると、頬をほんのり赤く染めて僕を見上げていた。

…チョコ食べるより先に今、鼻血噴射しそう。
胸がキュンとして、顔がにやけて、僕はマフラーを鼻まで上げてそれを隠したのだった。



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