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君しか見えない [ 6/6 ]



一言で言うならば、『最高』。これに尽きる。
だって今まで僕の甘党についてこれる人っていなかったのに、ルーヴェントは僕と同じくらい甘党で。

お互いにお気に入りのチョコを食べ比べてみたり、新作のお菓子を食べて評価し合ったり、バタービールを飲んでいる時も『もっと甘くならないのかな』なんて僕が考えてたことと全く同じことを呟いていたんだ。

それに何より、テンションの高いルーヴェントは今日はいつもより特別笑顔になることが多くてその度に胸を掻き乱される。
クールビューティーな彼女がこんなに可愛らしく笑うなんて、これがジェームズの言っていた『ギャップ萌え』なのだろうか。


「やばい、さすがに食べ過ぎたー…」


身体が熱い、と言うルーヴェントを気遣いながら歩いていれば視界に入ったものにギクリと思わず足を止めてしまった。

そんな僕を不思議に思うのは当然で、ルーヴェントは首を傾げながら振り返りそれからポンと手を鳴らす。


「なるほど。ルーピンはホラーが苦手なんだ?」
「…あ、え?なんで?」
「え?だってほら、叫びの屋敷。あれ見て止まったから、ホラーとか嫌いなのかと思って」


ああ、そういうことか。
僕は息を吐くのと同時に曖昧に微笑んで見せた。


「意外だなあ、ルーピンがお化け怖いなんて。でも大丈夫だよ。あそこから聞こえてくる叫び声はお化けとかじゃないから」
「そう、なの?」
「うん。その叫びを聴いたことがあるんだけど、すごく辛そうで苦しそうな…誰かに助けを求めるような叫び声だったんだ」
「……っ、」
「きっとあの叫びが聴こえる夜、あの屋敷には苦しみと闘っている人がいるんだと思う」


とても、とても優しげに細められた彼女の瞳。
そしてそう言うルーヴェントの、苦しそうに歪められた表情。

それには、彼女の言う『苦しみと闘っている人』に対しての同情や哀れみは一切感じなかった。


「できることなら助けになってあげたいけど、あそこには近付けないからね。罰則ものだし」


困ったように笑うルーヴェントに、僕の胸は今まで以上に締め付けられる。

そうだ、僕は…。
満月の夜はいつもあの屋敷にいて、誰かを傷付けないようにと隔離され、自分の中の獣を必死に抑えつけながら、その苦しみと…そして孤独と闘っていたんだ。

今は、それに気付いてくれたジェームズ・シリウス・ピーターが一緒にいてくれるようになって独りの時とは比べ物にならない程に良くはなったけど。


「あの屋敷には近付かない方がいい。そもそも禁じられた森も近いんだ、凶暴な生物に襲われたらタダじゃ済まないよ。…たとえば、人狼とかね」
「人狼…」
「………ぁ、」


なんてことを僕は口走ってしまったのだろう。
『人狼』を出して、ルーヴェントの反応を窺って…彼女を試すような真似を。

顔を俯かせてしまったルーヴェントにどう声をかけたらいいかと狼狽していると、彼女はバッと顔を上げて僕の口にチョコレートを押し付けてきた。


「ん、?」
「もし本当にあの叫びの正体が人狼なら、わたしは今以上に強く思う。助けてあげたいって。…その人の為に何が出来るわけでもないんだけどね」
「ルーヴェント…」
「ところでさ、人狼って甘いもの好きだと思う?」


悲しげな表情から一変して、ニッコリと笑って僕に問いかけてくるルーヴェント。
さっき押し付けられたせいで唇につきっぱなしのチョコを、僕は舌でペロリと舐めとる。


「……っ!」


彼女からもらったチョコは他のどんなものよりも甘くて、おいしくて、大好きな味がした。


「大好き、だよ」


ー…きっと。
そう付け加えて、さっきされたのと同じようにルーヴェントにも自分が持っていたチョコを押し付ける。

すると何故か顔を真っ赤にさせた彼女がいて、目が合った瞬間にバッと目を逸らされてしまった。
…もしかしてこれは、脈アリなのかな。


可愛い反応をするルーヴェントにそっと笑いを零して、それからホグワーツに戻ろうと声をかけて彼女の手を引いた。

ホグズミードに来るときと同じようにギュッと握り返された手に、何とも言えない幸福感がわき上がり心が満たされる。
さっきの人狼の話をして確信した。やっぱり僕には…。



(僕には君しかいない)


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