>>仁王くんと10年後再会する( 1/2 )


はあ、とため息をつきそうになって慌ててそれを酒で流し込んだ。周りが煩い。がやがやと聞こえる男女の声になんだか耳を塞ぎたくなった。私が居るから大丈夫だよと言った大学来の同僚でもある友人なんて、一番盛り上がってる。そう、今日私がこんなに煩いところで一人寂しくお酒を飲んでるのは、合コンに人数合わせで借り出されたから。ちなみに私が"一人"なのは、相手の男の人が残業済ませてから来るらしくまだ一人来てないからだそうだ。確か、向こうは大手企業だったよね。…いいなあ、しがない小規模な会社のOLな自分とすれば、恋は諦めてるから仕事ぐらいちゃんとしたい。
ちなみに、恋を諦めているって言うのは、好きな人が出来ない訳でも好きになってくれる人が居ない訳でもない。恋人は大学時代に何人か居たけど、私から好きになった人じゃなかった。自分からの好き、だなんて。高校時代に終わってしまった好きが、強すぎてもし誰かを好きになってもそれに負けてしまうんだと思う。相手はキラキラの学校内でも有名な人。なんでか分からないけど、仲は良かったからよく話せたし、席が隣同士で嬉しかったけど。そんな昔のことを思い出しながら、適当に頼まれ、テーブルに広がっている野菜と肉を適当に取る。サラダを頼んでくれた人、ありがとう。サラダの海老が何気に好きなんだよね。そう思いつつ海老を頬張りながらキープずみのお酒を注いだ。日本酒を頼んでくれた人、ありがとう。やっぱり海老を食べるなら日本酒じゃないと。でもお肉でもいいけど、ああ、焼鳥、誰か頼んでくれてあるじゃない。でも遠いなあ、と思いつつお酒を仰ぐ。


「ええ飲みっぷりじゃなあ」
「あ、どうもありがとうございます」
「焼鳥は?好きじゃろ、お前さん」
「好き好き。ありがとう」


はい、と渡された焼鳥はうわあと嬉しくなって声をあげながら言えば、くすくすと笑う声が隣から聞こえる。ん?ちょっと待って。私確かずっと一人で飲み食いしてたよね。そう思って隣を確認しようと顔を上げた。少しだけ上げた時点で、銀色の何かが見えた。ばっとそれに反応して俯いてしまう。それをごまかす様にコップを仰いだ。……銀色?いやいや、色が一緒なだけだし。別におかしくないって。まあエリート会社の人が銀色の頭とかおかしいかもしれないけどよくあることだよ、たぶん。そう必死に心の中で繰り返していれば、


「はい、あーん」
「んぐ、ちょ、ん」
「どーじゃ?旨い?」
「…美味しい」
「じゃろじゃろ?お前さん唐揚げには煩かったからのぅ、でもここの唐揚げ、めっちゃ旨いじゃろ?」


無理矢理口に押し込まれた唐揚げ。仄かなレモン味が美味しい。隣に座った銀色は凄く嬉しそうな声でそう言った。…私の好みも把握してんの?え有り得ない。銀色さんおかしいよ。方言もあるし。まるで九州の方の訛り。無理矢理作った感じでもなく、耳に慣れ親しんだ様にすっと入ってくる。


「でー、なまえはなんで下向いてるんじゃ?」
「…に、仁王君?」



顔をぐい、と持ち上げられ、乱暴だぞ銀色!初対面の女性には優しくしろ!と思っていれば、やっぱりな顔が見えてにたぁと悪戯っ子みたいに笑う。頬が引き攣り上手く笑えてないのは自分でも分かりつつ彼の名前を呼んだ。そうすれば、おん、久しぶりじゃなと彼は優しく微笑んだ。確かに、その笑顔は私が高校時代ずっと好きだった彼の笑顔で、彼は若干あの頃より大人っぽくなった以外は何も変わって居なかった。いや、あの頃から無駄な色気はあったけどね?
彼に久しぶりと少し吃りながら返せば、にこにこと笑い、コップを取ってきて私の飲んでる日本酒を一杯注いで仰いだ。


「まあまあ、色気のない。合コンに来といて端っこで日本酒仰いで」
「…まあ、人数合わせだしいっかなあって」
「お前さんもか」
「…え、仁王君も?」


そう聞けばさも当然な様におん、とだけ返ってきた。と、いうことはフリー、な訳じゃないかもしれないってことだね。家では可愛い奥さんが待ってて、早く帰りたいって思ってるんじゃないかな。いや、別に今更になって、仁王君を、だなんて思ってないけど。…そう、確かに、10年前、私が好きだったのは仁王君だ。でも、それは10年前のことであって、今も、と言われれば、…まあ、未練の様にずるずると引きずっているんだけど。だけど、それを今更、仁王君に打ち明ける、とか馬鹿なことは考えてない。すると、追加の日本酒を頼んだ仁王君が私の方を向いて笑う。…相変わらず格好良すぎ。


「そういや、お前さんいいんか?」
「え?…なにが?」
「人数合わせとか。彼氏とか何も言わんのか?流石に人数合わせでも合コン来とったら言うじゃろ」


そうさらりと言った仁王君に、仁王君はと聞けば、俺は彼女おらんもんともう一杯お酒を仰ぐ。


「仁王君は、どっちだと思う?」
「………」
「彼氏が怒るか、怒らないか」
「そうじゃのぅ、」


そう悪戯に振ってみれば、仁王君はニヤリと笑ってみせた。そして、テーブルに右手をつき、こちらに身体を乗り出してきた。思わず少し身体を引いた。


「俺じゃったら、お前さんみたいのが彼女じゃったら、行かせん」
「…え?」
「他の男になんて、見せん。触らせん。ずっと、」


そこでにこりと笑った仁王君。ずっと…?ずっと、なに?私が不思議そうな顔してたからなのか。仁王君はくすりと笑う。今度は、仁王君らしくない自信ない様な笑顔だ。…いや、昔、たまに仁王君はそういう笑顔を見せた。テニスが上手くいかない、時とか。すると、仁王君は左手を私の頬に添えた。え、なに。


「真っ赤じゃな、なまえ」
「っ、」
「…ずっと、好きじゃった、なまえ」


…うそ。嘘に、決まってる。そう言って見せれば、仁王君は今度は優しく微笑んだ。さらりと私の頬を撫でて、そこにキスを落とした。おそらくさっきより真っ赤になっている私をまっすぐに見た。


「…ペ、テン?」
「こんなことに詐欺はせん。信じて。ずっと、好きじゃった。お前が、なまえが、」
「…っ、に、仁王君、」
「隣になった、高校1年の時から、ずっと」
「……本当?」
「ああ、」


なまえは、と少し不安そうな気持ちが混じった様に仁王君は聞いてきた。分かってるくせに。仁王君はちゃんと言って、と言った。


「……私だって、好きだよ、仁王君。……高校1年の、隣になった時から」


そう言えば、仁王君は嬉しそうに、笑い、やっと手に入れた、と私を抱きしめた。


110718
(遅くなってすいませんでした。書いていたら「忘れていた気持ちを思い出す」にはなりませんでしたが、よかったら貰って下さい)(裏話で合コンがなまえの会社、なまえが居るかもと仁王を残業から切り上げさせたのは柳生です)
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