庭の薬草
なまえちゃんと出会って、俺が立海の王宮で働き始めてから、早くも1週間が経った。
基本的には、あまりなまえちゃんと会うことは無かったけれど、一度だけ俺と謙也の職場である、第一医務室に逃げ込んできたことがある。連れ戻しに来たのは仁王君で、謙也は笑ってなまえちゃんを引き渡していたけど、俺はなんで逃げ出したのかは教えてもらえんかった。…というより、まだ理由を聞けていない。



「…あれ、なまえちゃん」


王宮の中は緑に溢れていて、薬になる草花も咲いている。俺はいつもの通り、それを摘みに庭に出ていたのだけど、そこには白い帽子をかぶって薄いピンクのワンピースに白のショールを肩にかけたなまえちゃんが居った。俺はちゃんと見るのは1週間ぶりになるため、後ろ姿とは言え、なんとなく見て居たい気持ちになった。すると、彼女の方が気付いた。
俺の姿を視界に入れて、びくりと肩を揺らして驚いた様だったけど、そのあと、はにかんだ笑顔を見せてくれた。


「えっと、蔵、は、何してるの?」
「え、あ、ああ。薬草を採りに来たんよ。ここ一帯は薬草が生えとるから」
「え、じゃあ、これも薬草なの?」


そう言ってなまえちゃんは俺の隣に来て同じ様に草花を覗き込んだ。驚いた様に言ったなまえちゃんにそうやよと笑って答えると、小さい子供が面白い物を見つけた様な顔になって、嬉しそうに笑った。


「じゃあ、これが薬になるのね」
「そうや。まあ、これは火傷に効く薬になるから、滅多にお世話にならんよ」


そう言うてみせれば、そうねと笑って答えるなまえちゃん。
そのまま俺の隣で草花を見ていて、楽しそうにしとるから、少し話してみることにした。



「そういや、なまえちゃん、今日はお勉強ええの?」
「今日の分はもう終わったの。あ、そう言えば、蔵は謙也と同じ四天宝寺から来たんでしょう?どういうところなの?」
「どういうところ…?うーん、なんて言えばええんやろか…」



そう考えて、ふと気付いた。



「あれ?なまえちゃん、四天宝寺来たこと無いん?」
「え、うん。私はこの国と氷帝しか居ないから」



そう言って、腕時計を見て、慌てた様子でまたね!と言って去っていったなまえちゃん。ワンピースで走って大丈夫やろうか…。…せめて建物の近くまで一緒に行ってやればよかったやろうか。そんなことを考えていた。ちゅーか、なんか約束でもあったんやな。勉強は終わった言うてたし、幸村クンとでも?まあ、兄とは言え、幸村クン相手なら遅刻出来ないのかもしれへんなあ、と思って俺は薬草摘みに専念した。





「お兄様ー?」



お兄様と約束していたのをすっかり忘れるところだった。花が綺麗だったから外に出ていれば、し、…蔵は来るし。なんだか緊張しちゃうし。…でも、蔵、やっぱりいろんな草花のこと知ってたなあ…。今度薬草について習いに行こうかな。
私は1日の殆どをこの王宮で過ごすから、退屈なのだ。たまに氷帝や氷帝近くの森の別荘のお母様、お父様に会いに行く以外は。昨日は暇そうだった丸井に食事の準備が始まるまでの間、ケーキの作り方を習っていた。一昨日は蓮さん(柳蓮二さんのこと)が歴史について教えてくれたし。



「居ないのかな…」



今日はこの時間にお兄様に執務室に来る様に言われていた。…本当に居ないの?まあ、来てって言ったのはお兄様だし、待っていればいいよね。そして、私はソファに腰掛て帽子を取った。ショールも脱いで、傍に畳んで置いておく。さて、どうしようかな…。
そう思っていれば、




「精市さん!大変です!」




黒髪のもじゃもじゃ―赤也が飛び込んできたのは。



120624
放置気味ですいませんでした


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