幼馴染と私
「え?俺なんかしたん?」
「いや、なにもしてないよ」


そう言って幸村クンはふふふと笑うた。そして謙也を見れば苦笑い。どういうことかと思っていれば、幸村クンが説明をしてくれた。どうやら妹さん、なまえさんは人見知りらしい。それと、と付け加えた幸村クン。


「白石、格好いいからじゃないかな?俺には適わないけど」
「は?」


呆気に取られてしまった俺に幸村クンは変わらず笑っているし、謙也は胸ポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をしだした。…なまえさん、か。幸村クンによう似た藍色のくせっ毛をしとったなあ。幸村クンを女の子にした感じだけど、顔の成り立ちは少し違った。でも、可愛いお人形さん、みたいな。


「なまえさんは可愛えかったね」
「俺の妹だからね。当然でしょ」


そう当たり前の様に言った幸村クンにこいつはシスコンなのかと思ってしまったが、まあなまえさんみたいな妹だったらそうなるんかなあと思った。





あのあと、しっかりと帽子をかぶってジャッカルに車を用意してもらってから車に飛び乗った。ジャッカルは突然のことで驚いた様だったけど、何も言わずにどこに行くかだけを笑顔で聞いてくれた。走ったせいで少し息を切らした私が落ち着くまで笑顔で待っていてくれた。氷帝、景吾のところ。そう告げれば了解とまた笑顔で返してくれた。車が動き出すと私の携帯が鳴った。誰だろう、と画面を見れば「仁王」との表示。…ああ、やってしまった。そう言えば今日の勉強は終わっていたけど、午前中に私が我侭を言ってフランス諸島の語学をやりたいと言って、午後はそれをやる約束をしていたんだった。


「…もしもし?」
【おーう、なまえか?】
「うん、あ、午後なんだけど…」
【おう、午後のことなら心配せんとよかよ。柳生はちょっと参謀に呼ばれとるから代わりに電話したんよ】
「…ヒロじゃない。ちょっと声高いよ?」
【…流石、幸村君の妹姫様。いつも見破られてしまいますね】
「そりゃあ、毎日会ってるしね」


ふふふ、と笑いながらそう言えば、なのでお気になさらずとヒロは言った。ヒロとマサはテニスでもダブルスを組む幼馴染らしい。タイプが全然違うように見えるんだけど、ああ見えてヒロはけっこうの悪戯好き。マサの方がすごい好きだけどね。どうやらマサの近くで話していた様で、マサが柳生ーと間延びして呼ぶ声が聞こえた。


【…跡部さんのところと連絡が取れました。いつ到着しても大丈夫だそうです】
「え、なんで私が景吾のところ行くって」
【謙也からさっき電話があってのう。白石と会うた時そう言って逃げたんじゃろ?】


今度は本物のマサだ。…そっか、謙也が。ありがとうとお礼を伝えてから、フランス語は明日に回してくれるとマサが言って電話は終わった。すると、ジャッカルがそう言えば、と切り出した。


「なまえちゃんが好きって言ってた歌手のニューアルバム届いたけど、聞いてくか?」
「えっ。聞きたい!」
「じゃあ、かけるな。あ、それと、ブン太が今日のおやつは夜に回しておくけど夕飯は氷帝だったら太っていいなら夜食で持ってくってメールが」
「太っていい!」
「はは。分かった。そう伝えとくな」





そして、車に揺られ。いつもの様に入国手続きをジャッカルがしていると、メールが入った。画面を見れば、やっぱり思った通りの人で、思わず笑みが零れた。



「よし、じゃあ王宮でいいんだよな?」
「うん、よろしく」


入国手続きを済ませたジャッカルに頷いてからメールを返す。それと、余談だけど、今手続きしてくれた赤メッシュの格好いい人は景吾の学校(勿論貴族の人達が入る所で、学習院って呼ばれてる)の先輩なんだって。景吾が入る前はテニス部の部長さんをやっていたらしい。本当は警察の捜査一課の人なんだけど、何かヘマをしたみたいで先週から1ヶ月。ここの担当になったらしい。…景吾があの人らしいと言って笑ってたな、確か。




「よう、なまえ。待ってたぜ?」
「景吾!ごめんね。お仕事大丈夫だった?」
「大丈夫も何も今日は、」


王宮から馴染みの門番さんや執事さんに会ってから景吾の部屋に通された。ちなみにジャッカルは景吾の補佐の樺地君と途中で会って、話をしていくと言ったから先に景吾の所に行ってることにした。正しくは執務室。景吾がいつもお仕事をしている場所。部屋に入れば本を読んでた景吾が眼鏡を外しながら優しく笑ってくれた。


「今日はずっと健康診断とテニスしとったもんなあ?跡部」
「……忍足」


ソファに座っていた人物がへらりと笑ってそう言った。私は彼の名前を呼びながら、いや…苗字を呼んでから、私は景吾の後ろに隠れる。それはいつものことで、景吾も小さくため息をしてから対処してくれた。そして、この人は謙也の従兄弟だ。忍足侑士と言って、昔四天宝寺に住んでいたらしく、謙也とは仲が良いらしい。…だけど、私は苦手。声が若干低くて、それがいいみたいだけど、それがまず無理。妖艶って言えばいいかもしれないけど、その言葉は景吾が真っ先に似合うので却下。…長い髪が嫌。マサみたいに縛ってればいいんだけど、ギリギリ縛れる長さじゃないってのも嫌。とりあえず、変態っぽいから駄目。苦手。あくまでも嫌いじゃない。苦手だから、なんとかなるとは思うんだけど、まだこの人には馴れない。


「…はあ、忍足。近付くんじゃねえよ」
「なにそれ酷い」
「いいから、お前気持ち悪いんだと。早くそっち座れ」


ふん、と鼻で笑いながら景吾が忍足を座らせる。まあ、忍足も私が忍足苦手って分かっててやってるから、聞き分けはいい。……そう言えば、あの白石さんも、四天宝寺出身だった様な…。忍足も、知ってるのかな?
111016


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