そして私達は出会った
「なまえー?」
「あら、兄様どうかしたの?」
「なんだ、そんなところに居たのか」


ふわりと笑った兄様はお母様譲りのふわふわのくせっ毛を揺らしながら、おいで、と私に手招きをした。噴水につけていた手を少し払い、そのまま兄様の元に走る。どうかしたの、と聞けば、お前に合わせたい人が居るんだよと兄様は笑った。

兄様は名前を精市。苗字を幸村とする、立海王国の16代目国王様。私は幸村なまえ。兄様とは10離れた、妹姫とされる。母様と父様は兄様が16になると早々に引退し、今は氷帝王国に近いところでのどかに暮らしていらっしゃる。私はと言うと、今は16になり、まだご結婚なさってない兄様の第一王権者となる。つまり、兄様が独身だから、このまま兄様が不慮の事故に遭われたり、暗殺などされたりすれば、私が王になってしまうという訳。


「お前は馬鹿だね。俺が暗殺なんてされる訳ないだろ」
「…兄様、心を読むのはやめてよ」


まあ、兄様は暗殺なんてされない。なんて言ったって。兄様は神の子と言う二つ名がつくほどの人物。政治にしろ、王国、いや世界球技のテニスにしろ、兄様は負け知らずの方だ。ちなみに、いくつかの王国に分かれるこの世界は毎年テニスの大会で王国代表チームが争う。国王も大抵チームに入っていて、立海は今年三連覇を狙っている。ちなみに春の大会が16連覇狙い中で、三連覇は夏。夏の大会は参加する国が多くなるため、なかなかに大会優勝は難しい、って参謀である柳さんが言ってた。ちなみに柳さんも防衛軍の総監の真田さんもテニスプレーヤーで兄様のお友達。三強と恐れられる三人。


「兄様。私人と会うならお菓子が欲しい」
「どうせ、今日も景吾に会いに行くんだろ?景吾に貰いなよ」
「…えー、私丸井が作るパフェが今日は食べたい気分なの」
「景吾のところだって、芥川って言う美味しいお菓子作る人居るって前言ってたじゃない」
「うん。ジローさんのは美味しかった」
「だろ?だから我慢しろ」


丸井ってのは王宮お抱えシェフで、ていうかパティシエ。凄く美味しいお菓子を作ってくれる天才的パティシエだ。ちなみに、この人もテニスプレーヤーで団体チームのメンバー。つまみ食いばっかりしてるから兄様によくクビにするって脅されてる。兄様のお友達でもある。
ちなみに、景吾というのは隣国の氷帝王国の国王様。兄様より3つ下のテニスプレーヤーだ。ちなみに私と兄様と景吾は幼なじみだったりする。芥川って言う人は、芥川慈郎。私はジローさんて呼んでるけど、ジローさんは丸井が大好きでリスペクトだから、丸井みたいなパティシエになりたいって言ってる景吾の幼なじみ(だけど私の幼なじみじゃない)のお抱えシェフでテニスプレーヤーさん。


「ぶー。…あれ、謙也じゃない」
「おう、あ、精市さん、連れて来とるで」
「うん、ありがとう」


ニカっと笑って返事してくれたのは謙也。忍足謙也。元々四天宝寺王国出身の医者家系でテニスプレーヤー。大会の時期になると王国に帰るからちょっと寂しい。謙也は王族付き医者だから、兄様が忙しい時はよく話してもらう。というか世話係も兼ねる家庭教師のマサやヒロと同じで暇な時は相手をしてくれる人。ちなみに景吾のところの侑士っていう胡散臭い眼鏡は謙也の従兄弟らしい。


「誰か居るの?」
「言っただろ?合わせたい人が居るって」


謙也が白衣を翻しながら呼びに行った先には、薄い水色、に近い白衣を来た男の人が立っていた。しらいしーと謙也は呼んでる。白石、さん?


「お、幸村クン。堪忍なあ、気ぃつかんかったわ」
「いいよ、別に。何を見てたんだい?」
「なんや珍しい薬草、あ、無害な?がはいとったから気ぃなってなあ」
「へえ。まあ、王宮には色んな植物を集めたから自由に見ていいよ」
「おう、ありがとう」


どうやら、四天宝寺王国の方の地域が使う訛りみたい。ていうことは謙也と同じ、なのかな、と思っていれば、兄様が私の名前を呼ぶ。慌ててはい、と返事をすれば、白石さんと目が合う。ふわりと微笑まれてなんとなく恥ずかしい。


「紹介するよ。新しく王族付き薬剤師が出来たのは知ってるね?」


兄様の言葉に頷く。すると、


「その、第一号の白石蔵ノ介や。よろしゅう頼みます」
「あ、え、っと、幸村第一王女、なまえです。よ、よろしくお願いします」
「なまえは訳ありで城下街の学校にずっと通えてないんだ。良かったら白石話し相手になってあげてよ」
「え?ああ、おん。ええよ」


そう言ってまた、よろしゅうと微笑まれて今度は確実に頬が染まる。恥ずかしくなりすぎて、景吾のところ行ってくると叫び自室に走り込み、帽子とショールを掴んで車に飛び乗った。


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