昨日、なまえに案内されつつなまえの家まで送り届ければ、今度ははにかんだ様な笑顔でなまえは笑った。その笑顔を見てれば、なんだか昔のことも思い出せる気がしたのは気のせいだったのだろうか。帰り際に雅治、と俺を呼び止めたなまえは、あの可愛らしい笑顔で言った。

「また、一緒に帰ろっか」
「……そうじゃな」

そう笑顔で返せば、嬉しそうにまた笑うた。なんだかふわふわした感じがして、だけどむず痒い感じもして。体温が上がった気もして。ばいちゃ、とその気のせいを隠す様に背中を見せて言えば、また明日じゃね!と元気な声が聞こえちょった。




朝練。いつもの朝練は遅刻ぎりぎり。全ては低血圧故の寝起きの悪さだけれど。今日は低血圧と闘う場面もなく、部室に行けば、まだ丸井とジャッカル、柳生が居なかった。赤也が居らんのはいつものことじゃけど、俺がその3人より早く、この部室に居る3強の次に来るとか、滅多にあるもんしゃないと、自分でも思った。

「おや、おはよう、仁王。今日は早いね」
「データに稀に見る早さだ」
「うむ。よい心掛けだ」

3強全員にそう言われ、たまたまじゃよとだけ返して、自分のロッカーに向かう。ラケバを置き、ネクタイを解いたところで、事件は起こった。

「そういえば、仁王。頼みがあるんだけどいいかい」

もう最後に疑問符がついておらんぜよ、とか心の中で思いつつ、なんぜよーとだけ返した。ふふ、と笑う声が聞こえて、背筋が冷えた。振り向けば、幸村は笑っておって。

「あのさ、」

そのまま言葉を続けた。








「雅治!一緒にご飯食べるっちゃー!」

いつもと同じ様に4限目が終わると同時に、なまえが教室に入ってきた。そのまま、ぎゅう、と俺に後ろから抱き着いてくるが、まあいい。というか、この頃はなまえから逃げることは少なくなった。昼も一緒が多い。と言っても丸井も一緒じゃけど。

「……おん」

じゃけど、笑顔で返してやる気にもなれんでそう返せば、どうしたんじゃ?と顔を覗き込んでくるなまえ。黙っておっても、仕方なかろう。そう思い、口を開く。

「…お前さん、幸村は知っとるかのぅ?」
「知っとっと。テニス部の部長さんじゃろ?」
「そうじゃよ」

すんなり笑顔で返したなまえに、なんだかもやもやした。なんで知っとんの。…いや、知っとってくれた方が断然切り出しやすい。じゃけど、なまえが幸村を知っとるという事実が、気に食わなかった。幸村は有名人じゃし、俺が入っとるテニス部の部長なんじゃし。……ん?なんで『俺が入っとる』なんじゃ?ただ、テニス部でよかよ、と自分にツッコミを入れながら、なまえに言うた。

「その、幸村が、お前さん紹介してくれって」
「え?」
「…なんか、有名、らしくてのぅ。参謀…柳も会いたいって言うとったし、どうせならテニス部となまえでご飯食べようってなったんじゃけど」
「へー」

そう相槌を打ったなまえ。別によかよ?そう言うたなまえに安心した。同時になんだかイライラした。たぶん、なまえに、じゃないけれど。雅治?と首をこてんと倒したなまえに、それはすぐに消えたけど。なんでもなかよ、と返せばまたふわりと笑うなまえは可愛いかった。

「いやー悪ぃ悪ぃ!」
「…丸井君、なん?それ」
「へ?昼飯だけど」
「…今日、特別多くないかの?」

そう言うたなまえに激しく同意。丸井は弁当(これさえも俺のよりでかい)を机の上に置きつつ。両手には、イチゴオレとアップルパイ、新発売じゃと言うココアロール、メロンパンにチョコのバウンドケーキを2つ(本来1つで売っとるはずなんじゃけど)。抱えとった。はあ、とため息をついた俺に丸井は怪訝そうな顔で見た。見ただけで食欲無くなるっちゃ。

「なあなあ、早く行こうぜ!」
「どこ行くんじゃ?」
「屋上じゃよ、なまえ。今日は天気もええし、絶好のサボり日和じゃしのう」
「じゃあ、お弁当日和じゃね!」

今度の笑顔はどこか幼かった。お弁当日和?と首を傾げたのは丸井で。なまえは嬉しそうに笑っとった。確か、それは。昔、作った言葉。俺んちではよく使われる言葉。以前、姉貴になんでそんな風に言うのかと聞けば、あんたが作って言い出したの忘れたんかのと小馬鹿にされた。そうか、なまえと一緒に居た頃に作ったんか。なんだか嬉しくなり、懐かしい感じがした。咄嗟になまえの手を掴めば、驚いた顔をしたあと、またあの笑顔になって、握り返してくれた。



110514
(最後ブンが空気ですまぬ)

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