そのままなまえが嬉しそうな笑顔で色んな話をするから、それを聞きつつ歩いていれば。後ろから車のクラクションが聞こえた。なんだと振り向けば、一台の赤い車。

「まーくん」

そう言いつつ、運転席から顔を出した女。そいつの顔を確認してから、俺はあからさまなため息をついた。俺が振り向いたことでなまえも振り向いており、俺と女を交互に見つめる。ああ、そうじゃ。なまえに紹介しんと誤解する、と思ったところで止まった。え、誤解するてどういうことナリ。別に俺達はお互い幼なじみじゃってことしか関係はないし。付き合うてる訳でも、ないのに。

「嫌だぁ。まーくん。あからさまにため息ついてぇ。あ、彼女さん?こんにちは」
「あ、こ、こんにちは。か、彼女じゃないです」

なまえがパッと俺と組んでいた腕を外し、お辞儀というか会釈?をしながら、そう返した。彼女じゃない。まあ、そうじゃけど。別に俺がなまえを好きな訳じゃないが、なんだか気に食わない。九州訛り?と呟いた女。確かになまえは標準語で話しちょるものの、僅かな九州訛りがあった。そして、ああ!と手を打った、

「もしかすると、なまえちゃんやねっ?久しぶりじゃねー!」

俺の姉貴。姉貴はこっちに来てから、気が抜けたり、家族とかしか話さない様になっていたが、今は俺と同じ口調じゃった。え。そう目を見開いたなまえは困った様な表情で俺を見てきた。身長に差があるそれは、なんだか上目遣いみたいじゃった。う、と詰まりそうになった俺を見てニヤニヤと笑う姉貴は、やっぱり苦手じゃ。

「俺、の姉貴ぜよ」
「え!あ、じゃあ、ま、麻友姉?」
「そうそう!久しぶりやねー!なまえちゃん!」

…姉貴が、知っとるっちゅーことは、やっぱり3人で、幼なじみじゃったということで。…ああ、なんで俺、忘れちょるんじゃろうな、とか思っとれば、どうやら姉貴は今からデートとかなんとかで颯爽と赤の車を走らせて行った。…どうせ参謀の姉貴さんとショッピングに違いない。姉貴はデートの時は必ず相手の車に乗るからの。

「麻友姉、全然変わっちょらんね」
「まあ、あの邪々馬は治らんぜよ」
「ふふ、だって雅治の髪、脱色したんも麻友姉じゃったもん」

どうやら。俺だけがなまえをすっかり忘れちょるみたいで。じゃけど、髪を脱色したんは確か、小学校の卒業式の次の日。なんだか、あの日は…。そこまで考えてやめた。そのうち、思い出すじゃろ。そう思って、再び俺の腕に自分の腕を絡めたなまえの笑顔を見た。なんだか、温かく、なる感じ。懐かしいとか、家族と居る感じとは、ちょっと違う、感じ。あーくんは元気?と、俺の弟、淳志のあだ名を口にしたなまえになんだかやっぱり悲しくなった。例えるならば、鬼ごっこをする時に仲間割れにされた時みたいな。そんな感じ。あーくんはもう4年生じゃったっけ?と笑顔で言うなまえの手を、咄嗟に握った。腕を組むのは、嫌じゃった。手を、繋ぎたかった。


110512
(仁王くんの姉は麻友美(まゆみ)さん。弟は淳志(あつし)くん。勝手に作りました。ちなみに柳さんちの美穂さんは麻友姉と同じ大学。大学3年)

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