ことの始まりは、4月じゃった。
3年になって2日が経った日。B組に柳生が来た。少し困った様な笑顔じゃった。

「あの、仁王君」
「柳生じゃん、どうしたんだよぃ」
「…ん?柳生?」

俺のところまできて、どうしましょうと呟いた柳生は自分の後ろを見た。俺もちらりと視線だけ送れば、女子のスカートが見えた。女子?柳生が連れて来たんじゃろうか。それを聞こうとした時じゃった。

「まさはるっ!」

俺の名前を呼びながら女子が柳生の後ろから飛び出てきて椅子に座ったままの俺に抱き着いた。く、るしい。ぎゅうぎゅうと抱き着く女子。だれこいつ。丸井が柳生に問うと柳生はまた困った様に笑った。

「仁王君の幼なじみだそうですよ」
「「は?」」

俺と丸井の声が重なった。俺の幼なじみ?え。どういうことじゃ?俺は小学生時代は九州じゃし、幼なじみなんてそもそも居ったかのぅ。するとくっついていた女子が少しだけ離れた。その両手は俺の首の後ろに回っていたけど。にこりと笑って言った。

「久しぶりやの、雅治」

若干九州訛りな口調で言うた。俺んこと雅治って今、言うんたんか?女子はふわりと笑うてみせた。肩で揃えた髪がふわふわしててくせっ毛なんじゃろうか。裾が自然な感じでカールをしていた。

「なになに仁王に幼なじみなんて居たのかよ?!」

丸井はそうやって興味深そうに言う。え。ちょっと待ちんしゃい。俺、に、幼なじみなんて、居った記憶なんて、ないんじゃけど。

「ええ、私、みょうじなまえって言うの。よろしくね」

みょうじなまえ?…どこかで聞いた気がしんでもないが、なんだか、懐かしい、のか?いや、これは、懐かしいというより、

「…雅治?」
「ひっ!」

恐怖じゃ!
みょうじが伸ばしてきた手を咄嗟に払いのけてしまった。みょうじは目を真ん丸にしとるし、丸井も柳生も驚いちょる。一番驚いちょるのは俺じゃが。

「え、なに、雅治、」
「…俺、は、お前なんか知らんぜよ」
「は、なに言って」

みょうじは不思議というか意味の分からないものを見た様な顔をする。最後の喧嘩をまだ怒ってるんじゃね!と俺の姉貴が怒った時みたいな九州訛りでみょうじは言った。

「…いや、悪いんじゃけど、喧嘩ってなに」
「え、雅治、が、小学校卒業した日に、私と、雅治でした喧嘩」
「………悪いけど、俺、そんなん覚えとらんし。それに、」

おまんのことも知らん。なんだかもやもやとしたものが胸の中を燻ったけど、とりあえず自分の中の事実を伝えた。とりあえず、怒っとるみょうじが姉貴並に怖い。みょうじは俯いてしまった。慌てて、ごめんと言った。みょうじはふるふると頭を横に振った。後ろで柳生が心配そうに、丸井はサンドイッチを食べながらこっちを見ちょる。

「…分かった」
「え?なにが?」
「雅治が私のこと忘れちゃったんならさ、私が思い出させてあげるっちゃ!それでよかね?」

にっこりと笑ったみょうじは私のことはなまえって呼びんしゃい!と俺の口調によく似た口調でそれだけ言っちょって、走り去った。俺は残った柳生と丸井にどういうことかと説明を強いられ、説明をしたが、柳生に怒られた。早く思い出してあげなさい。ごめんなさい柳生。まだ思い出せません。

それからと言うもの、なまえは俺に執拗に構う。昼休みは異常な量の弁当を食べさせられるし、次の授業はサボりもうかうか出来ん。それに、なまえが来ると得体の知らないものが走る。予感みたいなんもんじゃけど。なんか、嫌じゃ。


110412
(女の子の九州弁が曖昧)

← →
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -