まーくん、まーくん。そう遠くの方から呼ばれた。誰じゃ?そんな風に俺を呼ぶんは。…確か、まーくんと俺のことを呼ぶのは敦志だけ。勿論、家族の中ならば。俺が、まだ小学生の頃。九州に住んでいた頃。俺をまーくんと呼ぶ奴はもう一人居った。


『まーくん!』


近所に住む、幼なじみのなまえじゃった。俺達は同じ頃、同じ病院で産まれ、同じ環境で育った。母親同士も仲が良かったからか。俺達は小さな頃からずっと。ずっと一緒じゃった。声のした方向を向こうとしたが、よくよく見れば俺の身体は15歳はずなのになまえの身体はせいぜい小学生3、4年生ぐらいだ。なまえは今と同じ様な茶色の髪だ。じゃけど長さが違う。セミロングぐらいの長さじゃろうが、髪を緩く二つ縛りにしており、その裾はやっぱりふわりとカールしておった。


『なまえー、遅かよー』


そして、もう一つの声。はっとなって見れば、俺の隣で小学生の俺が口を尖らせながら拗ねた様に言った。まだ黒髪で短髪じゃ。ごめんごめんと謝ったなまえは、笑顔でおはようと小学生の俺に言った。おはようと返した小学生の俺は早う行こうと急かした。遅刻すると言って、なまえの手を取って走り出した。一瞬、きょとんとしたなまえもすぐに、うんっと語尾に音符か何かが付きそうな嬉しそうな声色で返し、二人は走って行った。ランドセルが緩く、揺れとった。その赤と黒のランドセルが見えなくなるまで見ていた俺は唐突にこれは夢だと知った。自分の格好は家に居る時の格好のままだし、携帯や財布もない。どっかの小説やあるまいし、タイムスリップなどと言ったふざけた話じゃないじゃろうし。だけど、俺にはこんな記憶はない。というか、小学生の頃の記憶は、行事ごとでもそんなに覚えていない。修学旅行をどこに行ったと聞かれれば東京と答えることが出来るが、そこで何をしたなんて聞かれると分からない。俺の記憶は曖昧だった。


そんな風に考えていれば、場面が変わっとった。小学校の運動場じゃ。わあわあ言って体操服を着とるちびっこ達が大勢居た。どうやら、体育の時間らしい。と、いうことはこの中に小学生の俺となまえも居るっちゅーことじゃな。そう思って幾つかの学年、クラスが授業をしている所を見る。1発で分かった。ちゅーか、すぐ近くの団体が小学生の俺となまえが居るクラスじゃった。


『はーい、みんなー。今日はドッジボールじゃけえね、出席番号で偶数と奇数に分かれてな』


にこにこと生徒の前で言うた女教師が担任らしい。…たしか、俺の小学生生活で担任が女じゃったのは、4年の時だけ。ちゅーことは、敦志と同い年の頃の俺達ってことなりね。そう思って俺達を探せば、数人の男子とじゃれとる俺と(ちゅーか、俺の周りでじゃれとる男子を見る俺って感じじゃな)、数人の女子と仲間だ仲間じゃないとはしゃぐなまえ。…なんじゃ。ずっと一緒で幼なじみじゃって言うても、やっぱり小4になればこんなもんなんかの。そう思って見ていれば、教師が線を引いている間に、とことことなまえが俺に近寄った。何かを聞いているみたいだが、少し離れていて聞こえない。じゃけど、どうやら二人は違うチームみたいで、火花が目の間で散っている様に見えた。


ドッジボールが始まり、後半になった頃。お互いのチームの陣地には、俺となまえしか居らんかった。じゃか、外野が投げるボールを俺が取り、投げる。それを取ったなまえが投げる。それを俺が取る。…なんじゃ、互角なんか。


『まさ!ええ加減、諦めたったら?』
『それはこっちの台詞じゃのぅ』


ニヤリとお互い笑った。まさ?…そういえば、ずっとなまえは俺をまさと呼んでいた。学校でまーくんは流石に恥ずかしいっちゅーことかの、と見ていれば、ボールがなまえに渡った時、ニヤリとまた笑った。あ、なんかするの、あれは。なまえはボールを普通に投げ、俺はそれを難無く取り、投げようとする。外野が頑張れとか負けるなとかお互い煩い中、なまえは大声で言うた。


『まーくん、今日も一緒に帰ろーね』
『っな、』


まーくん、と言ったなまえに驚いた俺はボールを落としていた。そのボールはトントン、となまえの陣地に入り、すかさず拾ったなまえは引っ掛かったと言わんばかりの笑顔で固まっている俺にボールを投げた。




『…いきなり、まーくんとか言うとか卑怯ぜよ』
『まーくんはもっと駆け引きを知った方がええでー』
『…ちくしょうむかつく』


ボールを投げた所で場面が変わったが、たぶんなまえのチームが勝ったんじゃろうな、俺間抜けな顔しておったし。帰り道、川沿いの道を歩く二人。どうやらあの時の、まーくん呼びの話をしとるみたいじゃ。ニヤリと笑ったなまえに俺は呟いたが、なまえは悲しいなあっと全然悲しくなさそうに言った。この時期は、俺よりなまえの方が上手じゃったみたいじゃ。


『まあ、でも、』
『ん?』


そう切り出した俺になまえは振り向いた。俺は薄く笑いながら、なまえの耳に口を近付けて言った。本来なら聞こえないはずだか、俺はそこで何を言ったか、分かった。




『そんな、なまえの方が好きなり』



110801
『』は過去の仁王の言葉と、現代の夢を見ている仁王の言葉が、重なった感じです

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