「どうかしたん」

とりあえずなまえを部屋に入れ、適当に座る様に促す。きょろきょろと目を動かしながらなまえは座った。なまえ、と声をかければ、俺の隣に来ていいかと言うから構わないと返す。ちょこちょこと俺の近くまで来たなまえは、ベッドに腰掛ける俺の隣に座った。つまりは同じ様にベッドに腰掛けた。


「なまえ?」


黙ったままのなまえに不思議に思い声をかける。俯いたままのなまえはそのまま、ねえ、とだけ言うた。なんじゃと返せば、服をきゅ、と捕まれる。ねえ、ともう一度なまえは言う。服を掴む力が少し強くなる。何か話すかと黙っていたが、もう一度ねえ、と言われた。そこで気付いた。ねえ、となまえは言った声はどことなく震えてるし、手も震えてる。なまえ、と名前を呼びながら俺の服を掴むなまえの手に自分の手を重ねた。


「なんで、雅治、」


なんで、と繰り返す様に言う。変わらずに、声は震えていて、いつもは元気よく明るい声が今はどことなく寂しい感じがする。なまえは、ぎゅうと服を掴んだ。どうして、まーくん。そう言ったなまえになんだか急に切なくなって、なまえを抱き寄せた。痛くないぐらいの強さで抱きしめた。ああ、泣かないで。なまえは笑っていた方が可愛い。でも分かってる。泣かせているのは俺だ。俺がなまえを忘れてしまったから。俺が忘れてしまったから、なまえは泣いている。確かに、分かっていた。ずっと。最初に会った時、覚えていないと俺が言った時確かになまえが震えとったことも。


「まさ、」
「…なまえ」


抱きしめたなまえは涙目で俺を見上げてくる。ああ、泣かないでくれ。俺はなまえの肩に顔を埋めた。少し戸惑いがちに俺の背中に腕が回る。まさはる、と小さな声で呼ばれた。俺はそのままなまえの首筋に唇を押し付ける。びくりと反応したなまえが可愛えかったから、そのまま続ける。びくりぴくりと反応してたなまえは雅治、と俺をもう一度呼んだ。ゆっくりと身体を元に戻し、なまえを見た。赤く染まった顔を俺に見せ、まーくん、ともう一度違う呼び方で俺を呼んだ。同時に照れ臭そうに笑う。俺はたまらなくなって。なまえの腕を引き、そのまま、ベッドに倒れ込んだ。なまえ。好きじゃ。たまらなく、気持ちが溢れる。照れ臭そうに笑う、無邪気なお前が好き。人見知りなお前が好き。子どもっぽい所が好き。お前が好き。なまえの髪を撫でた。姉貴と同じシャンプーの匂いがしたが、あいつとは比べもんにならんぐらい、そそる。真っ赤になったなまえは左手で俺の服を掴んでおり、身長の問題で必然的に上目遣いで俺を見上げる。髪を撫でていた右手をそのまま首筋に落とし、さらりと撫でれば、ぴくりと反応したなまえは目を閉じてしまう。だめ。俺を見て。

昔の俺なんか見ないで、今の俺を見て。

そう。今更になって、俺はなまえの幼なじみの、なまえがよく知り、なまえをよく知る、昔の俺自身に嫉妬しとったことに気付く。だめ。なまえ、過去なんて気にしないで。俺を見て。今の俺を見て。しばらくそう思いつつ、なまえを見つめていれば、なまえが不思議そうにこちらを見た。ああ、そんな目で見ないでくれ。そんな、無防備な目で。

気が付けば、今度はなまえを押し倒していた。なまえはベッドに仰向けになっていて、俺をその上に馬乗りだ。真っ赤な顔で、だけど怖がってはいない様ななまえは俺を見ていた。目元が赤くなって、エロい。


「まさは、る」


ふわりと笑ったなまえに、なぜか頭痛を覚えた。頭がくらくらする。顔をしかめたのか、なまえは起き上がり、俺の方を見た。心配そうに、俺を見る。そうだ、


「俺を、見てくんしゃい」
「…雅治?」
「今の、俺を、見て」
「見てる、見てるよ、雅治」


頭痛が酷くなった。頭が割れそうだ。なまえは泣き出しそうな、いやもうすでに泣いているが、俺を見てそう言った。俺は、にやりと笑い(笑えたがどうかは分からんが)、なまえの後頭部に手を添える。ゆっくりと自分の顔に近づける。なまえが逃げ出せる様に。でも、なまえは逃げなかった。逆に恥ずかしそうに目をふせた。


「…なまえ、好きじゃよ」


110721
結構好きなシーンです

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