「今日はなまえちゃん泊まってきんしゃい」
「え?」
「は?」


夕飯の後、姉貴の提案で少しばかりゆっくりしてくとなったなまえ。淳志はなまえに話し掛けられちょるけど、曖昧にしか覚えちょらん様じゃった。まあ、小学前、じゃったかのぅ。それじゃけど、人見知りがひどい淳志になまえはにこやかに話し掛ける。びくびくとしちょる淳志を見て、昔の雅治みたいとけらけらと笑うなまえ。失礼な奴じゃな。昔は人見知りをしとったけど、そこらは得意の詐欺で乗り越えちょったし。まあ、それは淳志も同じじゃと前言っちょったな。すると、淳志はキラキラと目を輝かす。

「なまえお姉ちゃん、まーくんのちっさ時知っとっと?」
「おん、知っちょるよ。雅治と私はすんごく仲良かったんじゃもん」

すると、淳志は聞きたい聞きたいとなまえの服を引っ張る。そうやって苦笑してると冒頭の母さんの提案じゃ。思わず俺も声を出してしもた。ソファーに座り、ドラマを見る姉貴もええね、とか言うとるし。

「…えっと、ご迷惑じゃ」
「ないない!なあ、麻由美もええよね?」
「よかよかー。私ん部屋で寝ればよかとよ」

勝手に進んでいくなまえのお泊り話。ドラマから目は離しておらんが姉貴がそう言えば、ほらあと母さんが言う。終いには淳志も泊まってて!と誘う。淳志に腕を掴まれたなまえは少し考えてから、俺を見た。

「…雅治は?私が泊まってていい?」
「…お、おん。泊まっていきんしゃい」

そう言えば、嬉しそうにはにかむ。ふわふわと花が周りを飛んでそうじゃき。頬が緩みそうになるから、左手で口元を覆った。




「…じゃあ、まーくんおやすみなりー」
「おん、おやすみ」

淳志を部屋まで連れていき、目を擦りながら部屋に入ったのを確認してから自分の部屋に入る。あのあとはとんとん拍子じゃった。そうと決まればおばさん達と積もる話でもしましょう!と母さんが目を輝かせ、姉貴はドラマが終わったからか女子会みたい!とはしゃぎながらなまえを確保。それで淳志を眠らす役割は自然に俺に回ってきたと言う訳じゃ。

それにしても、あんな赤ん坊の頃からずっと一緒やったくせして、なんで俺は忘れちょるんじゃろうか。なまえのこと、なんで覚えちょらんのじゃ。そう考えてれば、心臓あたりが痛くなる。それに思わず嘲笑。女子か俺は。好きだから心が軋む、とか姉貴の持っとる漫画みたいじゃ。悲しいとか、思うとかおかしいから。

俺が、勝手に忘れたんじゃから。

そうベッドに寝転びながら思うた。…仕方ないのじゃろうか。アルバムを見ても思い出せんし、なまえと話してたりしちょっても、全然。思い出せん。私が思い出させちゃる、とか最初に会った時、なまえが言うてたけど、なまえはどういうつもりでそう言ったんじゃろうか。

…考えても仕方ない、なり。ひとまず明日は朝練もあるし、もう寝ようか、と考えていた。その前にダーツでもするかと思いつつ携帯に手を伸ばせば、メールが何通か。ブンちゃんと赤也、柳生。あとはメルマガが2通。全て一応目を通し、3人には返信をする。赤也に至っては数学が分からないから教えて下さい的な内容じゃったから柳に聞けと書く。丸井には適当に。柳生にはダブルスについてじゃったからちゃんと返す。



すると、こんこん、とドアを叩く音が聞こえた。…姉貴か?えでも姉貴が俺の部屋に何しにくるんかの。ちゅーか、姉貴じゃったらノックなんてしんし、じゃったら、

「空いてるきに」
「…入っていい?雅治」

なまえ。
少しおどおどした感じで、俺はその姿に緩く口元を上げながら、

「ええよ。入ってきんしゃい」



110708
メルマガとかって普通届きますよね?

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