「まーくん、まーだー?」
「あーくんこそゲーム片付けたんか?」
「おん!片付けちょーよ!」

ネクタイを解き、Yシャツを脱いだ所で淳志からの催促。本当に片付けたのかは最中じゃないの。適当にTシャツを引っ張り出し、下はスウェットでええじゃろ。ええよ行こか、と言えば、まーくんオレンジも一杯飲みたいとかなんとか、淳志が言うもんじゃから、ええよとか返す。




「あ、やっと来た。ほら、それじゃよ」

ソファの上で体育座りをしながら姉貴は視線だけ俺達の方へ向け、テレビ前のテーブルの上の分厚い2冊の本を指差した。あーくんはオレンジーと嬉しそうにキッチンに入って行った。さて、ゆっくり見よう。そう思い、ソファには座らず、テーブルの前で胡座をかいた。徐に1冊を手に取り、開く。アキ様格好いい!と標準語ではしゃぐ姉貴は少々うざったい。じゃけど、口に出したら、それはもう後が怖い…おん。やめとこう、我慢じゃ俺。

「あ、ビンゴじゃの、雅治。そこからじゃよ、なまえちゃんも載っとんの」
「……おん」

ゆっくりめくっていけば、一枚の写真が目に入った。虎のベビー服を身に包んだ2、3歳ぐらいの子どもが二人。嬉しそうに手を繋いで寝ちょる写真じゃった。片方は俺、じゃと思う。赤ん坊の頃の淳志にそっくりなり。じゃあ、ともう一人を見る。俺が淡い黄色の虎ならばもう一人は淡いピンクの虎じゃった。こっちはフードを被っちょって手を繋いでおらん手はフードを握っちょる。これ、か。鼓動が早うなるんを感じた。これ、が、

「……なまえ、」



その写真がなまえの初登場の写真じゃった。それからほとんどの写真がなまえと写っていた。そして。最後の一枚。小学生の頃の写真じゃろうか。小さい頃は同じくらいの背丈じゃったのが、もう二人の間には10cm近くの差が出来ちょっていた。

「…卒業式?」

その写真は卒業式の写真じゃった。花を胸元にさし、卒業証書を掲げて二人は笑っちょった。なまえだけ、なんだか悲しそうに笑っちょったが。

「あ、懐かしいのぅ。雅治の髪脱色したの、この次の日でしょー?」
「そうなんか?」
「うん。金髪がええじゃろ、ちゅーたのにいきなし意見変えたんじゃよ?」

それは、覚えちょる。金髪に最初するって決めていたことじゃけど、なんか確か俺が銀色がええとか言うて姉貴も途中から銀髪格好ええ!ってなって。あん時姉貴は高3で受験が終わったついでに黒から茶に戻したんじゃったな、確か。(姉貴は色素が薄いから栗色みたいな髪色をしちょったけど、受験ん時、生徒指導のせんせが煩かったから黒に染めた、と聞いたことがあるけ)

「そしたら、なまえちゃんめっちゃ驚いとったのう」

…羨ましい。けたけたと笑った姉貴は楽しそうじゃ。なんで、たかだか3年前の話なんに俺は覚えておらんのじゃ。く、やしい。ずるい。なんで、俺だけ覚えちょらんの。おかしいじゃろ。理不尽じゃ。俺じゃって、なまえの幼なじみで、ずっと一緒だったんに、なんで…!

「あ、母さんお帰りぜよー」
「ただいま、あーくん。ちょっと使い方おかしいけ、今度直そーね」

ガチャリとドアが開き、買い物袋をぶら下げとるはずの母さんに向かって淳志が言うた。どうせ母さんのことじゃ。買いだめでもしとるんじゃろうとテレビの前から動かん姉貴の代わりに立ち上がり、玄関に向かう。ごめんね遅くなっちゃって、と標準語で話した母さんは、

「ごめんね、なまえちゃんも。持たせちゃって」
「あ、いえ!全然大丈夫なんで!」

後ろを振り返って言うた。………は?

「あ、雅治!いいとこんに!今日、なまえちゃんち一人なんじゃて。じゃから夕飯一緒じゃから」
「…は?」
「よろしくの、雅治」

にこにこと笑うなまえに少し体温が上がった気もしたが、え?夕飯?今日?一緒なん?一瞬思考が止まった気もしたが、はっと、そこで我にかえってリビングにアルバムをしまいに走った。

「どうしたん雅治」
「…今日、なまえが夕飯一緒するって」
「…へえ」

それは楽しそうじゃね、と緩く口端を上げた姉貴。…楽しそうなんはお前だけじゃろ、どうせ。俺が昔を覚えとらんからアルバム引っ張り出したとか、なまえに言うに決まっちょる。……はあ。

なまえと夕飯一緒、は喜べるんに。
110518

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