俺はなまえが言う昔のことを覚えちょらん。正直、小学生と言えば3年前の話で。そんなまだ忘れる訳にはいかん頃を忘れとる、ということは何かがあったんじゃないか。そう部活帰りに思った。今日はなまえの昼休みを独り占め出来たが放課後、コートまでに行くのに練習をフェンスの向こうのミーハーの後ろでしばらく見ていくと言うたなまえと仕方なしに丸井と。3人で歩いていれば。なまえせんぱーい!と元気よく走ってくる奴がおった。そうじゃ、赤也なり。思わず舌打ちをしそうになった。いや、赤也は別に嫌いじゃなか。素直ないい後輩じゃ。じゃけど、なまえが、苦手なんじゃから。今、出て来んでもええのに。

「…はあ」
「ん?どうしたんだよぃ、みょうじ。あからさまにため息ついて」
「雅治が知っちょうよ」

ちゅーことで私こっちね、と俺の左隣りで歩いていたなまえは真ん中にきて、右隣りから動かんといてと丸井にお願いしたあと、俺の右腕を握った。手を繋ぐとかそういうんじゃなくて。手首よりちょい上らへんを両手でてすりみたいに掴まれる感じじゃな。

「なまえ先輩!無視っスか?酷いスよ」
「ああ、ごめんね。無視した訳じゃないんよ」

早口でそう苦笑いしたなまえに苦笑なり。丸井も気付いた様で、苦笑。赤也は分かっておらず、きょとんとしちょる。…大型犬みたいなり。それにしても、なまえはこんな奴じゃったっけ?そういや昔から人見知りは激しかっ、………ん?

「なまえ、」
「なあに?雅治」

俺を見上げて首を傾げたなまえに人見知りかと聞く。こくんと頷いたので、人見知り激しい方じゃろ違う?と聞けばよく分かったの、と嬉しそうに笑った。え、なに。もしかして俺、

「…………思い出しかけてる?」






ただいま、と言いながらラケバとブレザーの上着をリビングのソファーの上に置いた。まーくんおかえりーと間延びした声がすぐ近くから聞こえた。姉貴じゃ。母さんが居ない様で聞けば夕飯の買い物に行ったらしい。…母さんらしいが、ちと時間にルーズすぎるじゃろ。父さんもそろそろ帰ってくる時間じゃし。そんな今は19:54。姉貴はテレビの前のソファーに胡座をかいて戦闘準備万端。おおかた20:00から始まるバラエティーに姉貴お気に入りの俳優が出るからじゃろうが。そんなことを思いつつ、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。いや、オレンジしか無かったけんのう。仕方ないけ。自分のコップを取り出せば、バタバタと走ってくる音が聞こえた。

「まーくんおかえり!」
「おーただいまなり」
「あ、僕にもちょうだい!」

そう元気ににこにこと笑うたんは、弟の淳志。あーくんもオレンジ?と聞けば、まーくんとおんなじがええと言うから、オレンジをコップに注いで渡す。そして、戦闘準備万端な姉貴に声をかけつつラケバと上着を持つ。

「なあ、姉貴」
「なんー」
「俺が小さい頃ぐらいの写真あるかの?」
「あるよー出したあげちゃるから、着替え先にしてきんしゃい」

あーくんもゲームつけっぱじゃろうと姉貴の悪戯っぽい笑みに弟は肩をびくりと揺らし、どたどたと2階に走って行っちょった。けらけらと後ろで笑う姉貴を怪訝に見れば、

「もうあーくん、今度ゲームつけっぱじゃったら取り上げじゃし!」
「……さっすが姉貴じゃね」

母さんにそっくりの声でそう言うた。そうじゃと思うた。あんなゆっるい両親がゲームつけっぱだったじゃけで怒る訳がないし、じゃからあいつがあんなにビビる必要もない。多分姉貴が言いくるめたんじゃろ。たまにゲームつけっぱで寝ちょるし、隣の部屋の姉貴にしたらたまったもんじゃなかろうて。弟が騙されるのもデフォルト。あいつ以外はみんな詐欺師みたいなもんじゃし。元は父さんが絵本を読む時に声色を変えて読んでたのを姉貴と俺が真似をしたじゃけ。母さんが仲間外れはいや!とかなんとか言うて、今は弟じゃけが詐欺を出来ん。まあ、そのうち覚えるじゃろ。

「ええから早う着替えてきんしゃい」
「おん」
「アキ様出て来そうじゃから、先にアルバム出しとくから、」

どうせなまえちゃんでしょ、と言うてまたニヤリと笑うた姉貴には、やっぱり敵わんと思うて。とりあえずは着替えとあーくんも連れて来んといかんからの。あーくんは仲間外れすると母さんと一緒ですぐ拗ねるし。

110613
(仁王んちの家族の性格のモデルは私んちの家族の性格です)

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