ねえ、と声をかければ、なんやと笑顔で返してくれる。まだ少し関西弁の訛りが混じった彼の話し方が好きだった。あたし、と言いかけて止めた。なまえ?どうしたのかと怪訝そうな顔をした。なんでもないよと返せば綺麗に笑ってくれる。わたし、と言い直して彼がこっちを見るのを確認した。

「蔵のこと好き」
「なんや、今更やなあ」

彼はそうくすくすと笑う。俺も好きやでと返してくれた。ありがとうと言って、彼に抱き着いた。彼は持っていたペンを机に置いて、かけていた眼鏡を外した。わたしの身体を左腕でわたしの肩を寄せる様に抱きしめた。くすりと笑って今日は甘えん坊さんやねと言う。ああ、彼は優しいし、わたしに勿体ないくらい格好いい。ぎゅうと彼に抱き着く力を強くすれば、比例するように彼がわたしの身体を抱きしめる力も強くなる。蔵、と彼の名前を呼んだ。ん、と小さく返事をしてくれた。わたしは蔵に強く抱き着いて言った。

「終わりに、しよっか」
「………」

は、と少しの沈黙のあとに蔵は聞き返した。終わりにしようとわたしは繰り返した。

「…好きな奴、出来たんか」
「違うよ。わたしが、好きなのは、蔵だけだもん」
「…そやな、なんで」

わたしの髪を撫でながら蔵は聞いてきた。わたしが黙っていれば、髪を撫でる手を止めて、わたしの後頭部に手を添えた。さりげなく自分の身体からわたしの身体を離してそのままキスをした。ちゅ、とただのフレンチキスだったそれは、しょっぱかった。彼は嘘やろ、と言った。キスをして少しだけ離れた顔は、背の低いわたしがいつもじゃ見れない程近くに見えて、綺麗だった。

「…嘘じゃないよ」
「ほな、俺んこと好き言うたんが嘘やな」
「違うもん」
「…じゃあ、なんで」

わたしは彼を見た。彼は21歳とは思えなかった。わたしと居る時の彼はわたしと同じ中3に戻るみたいで、感情表現がこどもみたいだ。彼の長年の友人の方に聞いた話だと、昔から彼は完璧で、こどもみたいな面はそれ程見たことなかったと。特に、苛立ちや悲しみは。涙なんて。

「…わたしは、中3で、15歳だよ」
「それがどないしたん」
「…蔵は21歳じゃない」
「それが、どないしたん」
「…わたし、は、蔵とずっと一緒に居たい」
「俺かてそうや」
「…蔵が、離れていくのが嫌なの。蔵は、わたしなんか置いて行っちゃいそうだから」
「誰が置いていくなんて言うたん」
「…わたしは、こども、だから、蔵を支えてあげれない」

彼は、蔵は。東京の私立大学の薬科部の3回生だ。わたしが通うのは蔵が通う大学の附属の中学だ。蔵はわたしのお隣りさんだった。わたし達はマンションの隣の部屋同士だ。彼は、初めて会った時から優しくて。わたしはすぐに彼が好きになった。

「なまえは、誰よりも大人やし、誰よりも綺麗や。お願いやから、」

切羽詰まった様に彼は言う。俺から離れないで。関西弁で言われたそれに返事をする前に彼に口を塞がれた。ねえ。もう少しだけ待っててよ。あなたが4回生になる、わたしが高1になるのは、あと一ヶ月だから。だからもう少しだけ待ってて。お願いだから、わたしがあなたに追いつくまで。

「…く、ら、」
「ん、なんや?」
「ごめんね。…ありがとう」

くすりと笑った彼は涙ぐんだ目を細めて言った。どういたしまして。

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本当は別れるハズだったけど可哀相になった。
蔵は恋人にだけなら素を見せたりしたらいい。それが凄くこどもっぽいんだ、多分。

二人とも不安定で不安。
110418

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