※平安時代パロ
名前の部分はちょっと無理やり感ありますね。すいません



いくら、好きだと思おうとも、あなたに私の愛はいくらも届かないでしょう。あなたは、文字通り御簾の向こう側の方であり、私はただの、と言ってしまうと失礼だけど、女房であって。あなたは、お仕事がおありで。私はお取り次ぎをしたことがないけれど。他の女房に聞きましたの。あなたは、その瞳と同じで、態度も冷たいと。でも、こうとも聞きましたの。歌はきらびかであり、なでやか。素晴らしい感性を持っていらっしゃると。字もお上手で、知識深い方。上様のご教育係でもあるあなたは、奥様と疎遠になりつつあり、お二人の間にお子様はおらず、ご実家は跡取りを急いていらっしゃるとか。それなのに愛人は作らないで。でも本当に歌はお上手で、それにあまり余る程の容姿の淡麗さをお持ちで、お家の出は、先々代帝をお祖父様に持つ、中の関白家の血を持っていらっしゃる。



「気になるのなら、声をかけて見ればいいじゃないの」
「ど、どなたにですか?」


あら、それはあなたが一番分かっているのでしょ?そう中宮様がおっしゃられた。分かって、いらっしゃる。私が、跡部様に好意を抱いていることを。もちろん、お取り次ぎをしたことがないということは、跡部様にお会いしたことはない。だけれども、跡部様の歌に惹かれた。あれほどまでに、私を惹きつける歌が、今まであっただろうか。そして、そのことも中宮様はご存知でいらっしゃる。


「おまえが跡部に気があることは見てれば分かるものよ。得意の歌でも一つ、送ってごらんなさい」
「ちゅ、中宮様!な、なにを」
「あら、おまえだって女の喜びを、感じてみた方がいいわ。今よりもっと歌に深みが増すでしょうし」


中宮様はそう仰って、私はぐっと息を詰めた。そうだ、私は、恋人は居たことがあれども、その人に入内を勧められ、それからは疎遠となってしまい。初めての恋人だったのに、あの人はもう会おうともしない。…あの人と、跡部様では、全くもって似ているところがないというのに、私は、どういう人が好きなんだろう。


「理屈っぽく考える所もおまえの悪いところよ。ほら、詠って。それを、跡部に渡してしまいましょう」
「お取り次ぎを、お願いしたい」


中宮様がそう言って微笑まれて、それから筆と紙に手を伸ばした時、そう声が聞こえた。近くに女房は居らず、私はこれ幸いとお取り次ぎをしようと、簾に向かう。くすり、と中宮様が笑ってらしたのには気付かなかった。


「はい、」
「これを、中宮様に」
「畏まりました」


簾の下から通された紙の綴りを受け取った。さて、お取り次ぎはこれで終わりだけれども、このあとに大抵世間話があるもので、私はそれを好きでもあり嫌いでもあった。知識深い方々とお話するのはとても楽しかったけれど、あまりどうでもいい話になってしまうと途端につまらなくなってしまうのであった。すると、相手の方は、訝しげな声で告げる。


「…見ない顔ですね」
「え?」
「初めまして、蔵人頭の跡部景吾でございます」
「え、あ、…みょうじ式部と、呼ばれております」
「では、あなたが」


そうくすりと笑って跡部様は、この歌の方ですね、と以前私が中宮様の前で詠んだ歌を空で詠われた。かああ、と顔に熱が集まるのを感じた。簾があって本当によかった。すると、素晴らしい歌ですね、と跡部様は仰られて、簾の隙間からご自分の手を滑り込ませ、私の手の上にそっと乗せた。


「いつか、二人きりで歌を詠みあいましょう」


それだけ仰られて、跡部様は執務に戻ります、とお戻りになられた。後ろで、事の事態を見られていた中宮様は嬉しそうに微笑まれ、向こうもその気ではないのと仰られ、おまえ顔が真っ赤で可愛らしいと笑われた。

…跡部様、ああ、お慕い申しております。だけれど、恋心を歌として詠むのには慣れておりませぬ。恋歌が多く詠まれる歌の世界で、私は極力恋歌を避けてきた。どんな、歌を詠んでいいか、分かりませぬ。



121009
主人公は清少納言がモデルです。所々清少納言と同じ所があります。ということは、中宮様は定子イメージで、もちろん跡部は藤原行成です。行成にしては愛想がいいし、跡部は一応身を固めてるので、立場的にとだけで、跡部はイメージとしては行成を参考にはしてません。あとちょっと在原業平をモデルにした
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