すごくいい人だから、ね?
そう母に言われて、じゃあそんなに"いい人"がなぜ、相手が居ないのかと返さなかった私は偉い。まあ、にこにこと笑って話す母を困らせたくなかったのが理由だが。ある程度いい家に生まれた私は、無事に大学まで出させてもらい、そこそこの会社に勤めていた。仕事が生き甲斐だと言う私が、なかなか彼氏を作らないので、業を煮やした母が"いい家"の相手を見繕って。お見合いをセッティングしてきたのだ。ため息を吐くだけの私はそれを同僚(男)に相談すれば、生まれつきなのか赤紫みたいな変な髪を揺らして、会うだけ会ってみればいいじゃねーかとか言うから。まあ、向日のせいにしても悪い。とりあえず、そんな感じで、お見合いをすることとなって、自分の給料では到底来れないだろう料亭に来ています。


「あらあらあら!可愛いらしいお嬢さんだこと!」
「綾さん、そんな褒めないでくださないな」
「何を言ってるの!景吾には勿体ないぐらいよ〜」


どうやら、相手側の、跡部、だったか。跡部さんのお母様はうちの母と親しいらしく。笑ってそう話す二人に私は愛想笑いを浮かべておいた。相手側の男の人はまだ来ていないのだ。お母様の言うことには、彼は仕事が急に入ってしまい、指示だけしてくると言ったらしいのだ。はあ、こんなことなら、企画書書いてる方がよかったかも、と思っていた。


「っ、遅れてすみません…!」


そう入ってきたのは、金髪っぽい茶髪をした、蒼い目の、美形。高級そうなスーツをきていて、洒落たネクタイは少し緩められていて。息は少し荒く、急いできたのが分かる。ええ、ちょ。場所間違えてない?すると、相手側のお母様が、景吾、と声をかけて、


「遅かったじゃない。みょうじさんたち待っててくださったのよ?」
「はい、すいません」


そう頭を下げて、あらあらあら、と笑っている母を見ると、この人で間違いない様だ。…というか。相手方の人、すごく綺麗じゃん。なに、本当は彼女持ちとかでさ、うちの母が無理矢理頼んだとかそういう感じじゃないの。そう思っていれば、あとは若い人だけで、とか言ってどちらも母親が出て行ってしまった。えええええ。ちょっと待ってくださいよ…。私の前に座った美形をそっと見れば、さっき緩めていたネクタイを直している所で。そのまま見ていれば、視線がぶつかって。すると、じっと蒼い目で見つめ返されて。どうすればいいか分からないです…。


「跡部景吾です。よろしくお願いします」
「あ、みょうじなまえです。よ、よろしくお願いします」


頭を下げられ、私も慌てて頭を下げた。そして、顔を相手を伺いながら上げれば、くすりと相手―跡部さんは笑った。うわ、恥ずかしいっ、と、同時に、格好いいなあ…。そう思っていれば、


「…すいません、自分、こういう席は初めてなもので」


そう言って、失礼でしたらすいません、とまた笑った。それに、いえ私もなので、と返しつつも、こういうお見合いが初めてじゃなかったら逆におかしいんじゃないだろうか、と思った。まあ、跡部さんに恋人が居ないのもおかしいことこの上ないんだけど。すると、暫く黙っていた跡部さんは、真っ直ぐ私を見て、聞いてきた。


「みょうじさん、ご趣味は?」
「あ…えっと…テニスを、少々」


苦笑いつきでそう答えた。いや、テニスなんて中学の時と大学の時にかじって。それぐらいで今はラケットを見るぐらいしかしてないけど。ここでさ、ストレス発散でバッティング、とか、オールカラオケとか、答えたら、何かいけないと思った。うん。すると、目を少し、開いた跡部さんは、


「自分も、テニスを」


え?やばくない?この状況、やばくない?
跡部さんの趣味がテニスとか…計算外なのですが。だって、もしまた会いましょうってなってテニスのことになったらどうするの。嘘ついたって分かるよ?いや、跡部さんとお付き合いしたい訳じゃない。そりゃあ、綺麗な人だとは思うけど、今は恋より仕事だ。あくまで私が跡部さんに笑顔を向けているのは、母の知り合いの息子さんだからである。
そもそも、私が中学と大学の時にテニスをかじったのは、その時の流行りだ。中学の時は学生テニスが最も注目された時代で。その当時バスケ部だった私の耳にも話が入ってくる程の話題性を持っていた。『10年に1人の逸材が集まった時代』。そう呼ばれたあの時代は、中学テニスのレベルがハンパなものではなかったと聞いている。そして、高校もそれは続くのだが、大学時代。同い年の大学生から何人もプロが排出されたのだ。それで一気にまたテニスが流行って、それで私も。確か、その時にプロになった越前リョーマや手塚国光、幸村精市は今でも有名で、たまにバラエティに出ている。そういえば、幸村精市が今度『10年に1人の逸材が集まった時代』―彼は、例の時代と呼んでいた―で鎬を削った仲間やライバル達で顔出しOKな人を集めて番組をやりたいとか言ってた。一テニスプレイヤーで、某有名飲食企業の勤めである幸村精市の意見が、通ってしまうのが謎だけれど。


「そうなんですか。では、今度、打ちに行きませんか?」
「あ、はい。ぜひ」

って、何言ってんの!私!
でも、テニスをやっていると私が言ってから、跡部さんは少し柔らかくなった様で。なんだか、穏やかな気分になった。


120826
続きます。
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