跡部連載「泣かないで」のIF短編。
跡部と樺地と共に主人公も氷帝に入学していたら、の話



「自分で掴みとれ!」



壇上の景吾はそう言ってお得意の高笑いで新入生の言葉を締めた。なんとまあ、景吾らしい。周りの皆は殆どが唖然としてる。ふふ、と私は小さく笑みを溢した。
日本に帰国することになった景吾に我儘を言って私は付いてきた。私の両親はまだ帰国出来ないから、私はこっちのおばあ様とおじい様の元に住むことになっている。私は、両親に無理を言っても付いてきたかったのは、景吾とずっと一緒に居たかったから。


すたすたと進む景吾の後ろを私は歩く。ずっと、昔からこうやって歩いてきた。まあ、後ろってより、斜め半歩後ろ。それが私の立ち位置で、私より少しだけ背の高い景吾をこの位置から見るのは好き。いつもなら反対側の、もう少し後ろにむねが居るのだけど、むねは初等部に編入したから、景吾と歩けるのは今は私だけ。ずっと、昔から、私は景吾と一緒に居た。これからも、ずっと。
日本に帰国し、景吾はまず検査を受けた。飛行機での長旅と、初めての日本での暮らしの為に。そして、発覚した事実。昔から病気持ちで身体が弱かった景吾は、それでもテニスを続け、普通の子の様に過ごした。寿命が30ぐらいだと、知りながら、悲観めいたことを言わず、普通の人の人生より少し短いだけだと、薬を飲まなくちゃならないのは、食事を採らなければならない普通の人と同じだと。運命だと、この生き方が自分のものだと言って、弱音を一切吐かなかった。そして、苦しいはずなのに。辛いはずなのに。大好きだと言うテニスを続けた。日本に来て、寿命がもって20までだと言われても、テニスをやめようとは、しなかった。私は泣いて頼んだ。どうかテニスをやめて、治療に専念しようって言った。でも、景吾は、テニスの仲間が欲しかったと言った。いつも、イギリスでは一人ぼっち。チームには入らなかった。いつ倒れるか、分からなかったから、景吾は広く友達は作らなかった。だから、中学に入ったら、テニス部に入って、仲間を作ると、楽しそうに。だから、私は、そんな景吾を、支えようと思った。




「ここは、君の様な遊び半分で来ていい場所ではないんだ」



だから。そんな言葉が頭にきた。
景吾は、部長になると言った。早めに、思い出と仲間を作りたいから。自分の名前を残したいから。自分本位な考えだと分かってると、車の中で悲しそうに笑った景吾を、知らないくせに。なぜ、あなたたちに、景吾のテニスが分かるの。まだプレイしてもいないのに。景吾のテニスを見てもいないのに。景吾が座っているソファのひざ掛けに腰を下ろしていた私は、ただ先輩だと言うその人達を見た。この人達に、何が分かるの。この人達が、景吾の、仲間になるだなんて、無理だよ。最初から、決めつけて、何になるっていうの。何か言い返してやろうと思えば、景吾が私の手を掴んだ。落ち着け、とも言える手だった。…なんで、景吾はここまで強いんだろう。そう思いながら私は、小さく笑った。



「…Silly persons(馬鹿な人たち)」
「おい、なまえ、」
「I see.I looking for seeing your play with them.
(分かってるわ。この人達とのプレイ、楽しみ)」



私が英語を話したことに、さっきまで私がなぜ居るのかを怪訝そうに見ていた人達を始めとし、殆どの人の視線が私に集まった。私は膝掛けから降りて、笑みを浮かべて左腰に手を当てた。景吾と試合をすることになった赤メッシュの人を始めとする、自分達はただ年が上なだけじゃないとか言ったセンパイたちを見ながら、言った。




「景吾のテニスをお遊び、だなんて。後悔するよ」




1年生と思われる髪をくくった子と、茶髪の子、赤髪の子の隣りで私は景吾がセンパイたちとしている試合を見ていた。ぶっ続けでやりそうだったから、水と薬を用意したんだけど、センパイたち相手に景吾は一切息を切らしていないし、汗一つかいてなさそう。これぐらいならまだ大丈夫かな。そう思っていれば、最後のセンパイが倒れて、私の近くに居た髪をくくった子と赤髪の子が景吾とやることになった。



「…ねえ、君はだあれ?」



試合を見ていれば、茶髪の子から声をかけられた。私?と私を指差して聞けば、そーだよーと間延びした言葉が返ってきた。周りのセンパイたちも、気になっていたみたいで、視線がちらちら集まってる。景吾が速いサーブを打って、周りがざわついたのにまた私は笑顔を浮かべ、


「私は景吾の幼馴染みだよ」
「景吾って跡部?」


そう聞いてくるから正直に答えれば、周囲の視線も集まる。どうやら試合も終わったみたいで、まだ発作は出てないけど、若干汗をかきはじめてる様に見える景吾に、早く薬を飲ませたい。そう思っていれば、今度は丸眼鏡をかけた人がきて、私は大きくため息をついた。


でも、まあ。
景吾が楽しんでくれるなら、いいかなあ。



120805
こっちの設定でも書いてみたい。主人公が本編より寛容なのは、最初から縮んだ寿命を知らされてるから。
今更ですけど、ジローちゃんって茶髪でいいんだよね…
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