会いたかった、と呟いた彼女に俺もだと返してからそっと抱き締めた。彼女の身体は以前抱き締めた時と依然変わっておらず、それに思わず笑みを浮かべたのが自分でも分かった。背中に回された彼女の腕を感じ、それにまた笑みを浮かべ、俺はそっと彼女をベッドの上へと倒した。何も言わない彼女。俺は身体を浮かして、彼女にキスをひとつした。ただ彼女はそれに答えて。俺はそんな彼女の髪をすいた。ふと、これまで黙って俺の好きな風にさせておいた彼女が口を開いた。



「それ、外して」



彼女―なまえはそう言って俺の左手薬指にはめてあるものを心底嫌そうに顔を歪めて言った。そんな顔も可愛い。俺はふっと笑ってそれを外して、ベッドサイドに設置されているライトの下に置いた。そしてなまえの左手を持ち上げて、



「なら、お前も外せよ」
「景吾が外して」



そう言って悪戯っ子の様に笑顔を浮かべたなまえに小さく息を吐きながら、俺は言われた通りにそれを外して、俺の指輪の隣に置いた。
デザインの全く違うそれらが隣同士に置いてあるのは、なんだかおかしく感じられる。



「…何歳になった?」
「上のが今年で7つ、下のが3つだ。お前のとこは?」
「6つよ」
「そうか。…うちのと同じクラスだろ」
「そうなの?」



全然知らなかったと笑ったなまえに、妻が嬉しそうに言ってたと言えば、妻の名前を呼びながら、そう言えば言ってたかも、と言った。すると、うちの旦那も景吾の仕事っぷりを教えてくれるよ、と言ってから笑みを浮かべた。




「その話はあとにしよ?」
「ああ」



頷いた俺は、愛してる、と言って、もう一度キスをした。それに答える様になまえは俺の首の後ろに手を回し、深くなるキスと共に、あとは身体を俺に預けた。




俺となまえは、どちらも財閥の一人息子、一人娘であった。別に家同士は特別親しい訳じゃなくて。それでも、氷帝で出会い、中学二年から高校二年まで、4年に渡り、付き合っていた。だが、高校二年。その時、なまえの婚約が決まり。そのすぐあと俺の婚約が決まった。お互いが婚約者、という訳にはいかなかった。上で述べた様に、家同士が親しい訳じゃない。正しくは、犬猿の仲であった。俺達は結ばれるべき関係ではなかったのだ。そして、お互い違う相手と家庭を持つことになったが。俺達は今日の様に、誰にも内緒でこうして逢瀬を重ねていた。
別に、俺は今の妻を嫌いではない。子供も嫌いではない。愛しては、いる。同じ様に、なまえも、旦那を嫌いではない。子供も嫌いではない。愛しては、いるのだ。



ただ、俺の1番が、なまえで。
なまえの1番が、俺で。

ただ、それだけ。



120814
いつも変な短編ばかりで本当申し訳ない
跡部家とヒロインが嫁いだ家は跡部が当主に代わってから親しくなって、ヒロインの実家とも親しくなってきた、という設定です。跡部妻はヒロインのことをママ友だと思ってる
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -