「やなぎくん」

ふわりと微笑んだ彼女はそのまま俺の衿元に手を伸ばした。正確には、ほんの少しだけ緩ませてある、ネクタイに。彼女はそれをぐっと自分の方に引っ張った。俺はそれに抵抗しない。ネクタイが引っ張っられるまま、自分も彼女に近付いた。俺は椅子に座り、ただ彼女を見上げ、そして彼女のしたい様にさせていた。つまりは彼女のなすがまま、と言う訳だ。支配されるのは嫌いではない。だが、支配する方が好き。誰だってそうだとは思うが、彼女に、支配されるよりは、彼女を支配する方がいい。

「す、き」

可愛らしい小さな口でそれだけを紡いだ。やなぎくん。そうやって彼女は俺の名前を呼ぶ。なんだ、と小さく返せばふわりと彼女はただ笑うだけなのだ。俺はそっと彼女の名前を呼んだ。彼女はまたふわりとだけ微笑んだ。いや、微笑んだのと同時に彼女は俺のネクタイを強く引っ張った。少しだけ首が痛い。今度の彼女は無表情だった。俺は彼女を少し見つめてから。それから。お前はやっぱり可愛い奴だな。それだけを呟いた。彼女は先程の無表情から一転し、目にいっぱいの涙を浮かべた。ネクタイを掴んでいた手を俺の背中に回した。彼女は変わらずに立っているし、俺は椅子に座ったままなので、俺が抱きしめられているみたいだ。いつもは束ねている彼女の髪がさらりと俺の顔を滑った。ふふふ、と笑みを零した彼女は言った。

「やっぱり柳くんはおかしいね」
「別におかしくて構わない」

今度の返事はすぐにした。今までの返事も遅れていた訳ではないが、今度は即答だった。少しだけ元々大きな目を見開いた彼女は、じゃあ二人でおかしくなろうよと俺にキスをした。俺はもちろん、と返事をして彼女の首元に吸い付いた。彼女の髪が少し邪魔で、さっきまで使う必要の無かった手を動かした。右手は彼女の後頭部。左手は髪をずらす。ちゅ、と小さな音を立てながら唇を離せば、ふわりと笑った彼女は大好きだよと言った。

「俺もお前を愛してるよ、なまえ」


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真面目に柳さんを書いたのは初挑戦です。
私は在り来りに愛してるとか言うのは嫌いなので(好きや大好きはいいけど)あまりキャラにも言わせないけど、柳さんは大好きより愛してるのがいいそうだな、って思って。

お題「最後までおかしな人だったわ」
お題提供>>>愛執
110512

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