千紗が俺の世界から消えてしまってから、3ヶ月が経とうとしている。千紗が居なくなったと言うのに、この世界は止まることもなく、そして何一つ支障なく動いていく。それが信じられなかったし、そして納得もしていた。人が一人、居なくなってしまおうが、この世界には何も関係ない。ただ、時間は過ぎて行く。この前まで、千紗は俺の隣で笑っていたのに。俺の隣に居たのに。ずっと、これからも、あいつは俺の隣に居るものだと思っていた。
あれは、本当に突然のことだった。誰が、自分の彼女が、つい先程まで一緒に部活をやっていた奴が、事故に遭ったなど、予想出来るだろうか。…部活が終わった後。家に帰ってからの携帯への着信。悲痛のこもった、千紗の母親からの電話。俺は伝えられたことが信じられなくて。病院へと向かった。千紗が、事故に遭ったと。緊急治療室に入ったと。そんなの、嘘だと、言って欲しかった。


そして、俺が病院に着いて。それからレギュラー達が揃い、30分も経たない内に、一度も目を覚ますことのないまま千紗は息を引き取った。

俺が、あいつを最後に見たのは、部室で部誌を書いていたあいつを待って。そして、徒歩で途中の帰り道まで見送った、その時の笑顔。それが、千紗を見た最後だった。また明日、と笑って言った千紗が、その後事故に遭うなど、誰が想像出来るだろうか。だが、あの時。俺が、千紗の家まで、千紗を送り届けていれば、あいつが居なくなることにはならなかったのではないか、と思えてならない。

千紗は、中3からの付き合いだった。部長とマネージャーの関係ならば、中1からだった。俺達、氷帝男子テニス部のマネージャーは、千紗一人だった。俺を支えてくれたのは、いつでも千紗だけだった。


千紗、今でも、お前を、好きだ。










「…そうや、跡部。明日の朝練は休ませてもらうわ」
「え!聞いてねーぞ!侑士!」


放課後の練習が終わり、忍足がそう切り出した。それに反応した向日は忍足に向かって言う。苦笑いした忍足はネクタイを絞めながら言った。



「俺のおとんの患者がな、退院してここに通うんや。おとんが心配や言うから、俺が暫くは面倒見ることになってん」
「あれ?でも、忍足さんのお父様って、院長先生ですよね?」
「ああ、」


そう頷き、言い淀んだ忍足は、暫く沈黙を作ったが、やがて口を開いた。



「…重い病気やったらしくて、ずっと。親父が担当することになったんは、その度合いが酷かったちゅー話や。その子、ろくに学校通ったことないらしいんや」


やから、心配なんやって、と笑って言った忍足は、珍しく感情を表していた。おそらく、そいつと忍足は関係がある、もしくは、前々からその存在を知っていたんだろう。



ほら。
千紗が居なくても、こうして日常は過ごせるし、その日常は変わっていく。

なら、俺はどうすればいいんだろうか。まだ、千紗は俺の中に居るのに。千紗は、消えていかないのに。進んでいく周りに、俺はどうすればいい。

なあ、千紗。


120925
跡部様未練たらたら
   
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