−空がきれい。
いつも、この見慣れた場所から見上げる空はレパートリーに豊富だ。晴れの日は明るい青に近い水色。少し曇った日はそれこそ薄い、少し寂しげな灰色がぽつりと空に浮かんでいる。雨の日はここに来るのは看護婦さんに怒られるからだめだ。

今日はなんだかくすんだ色をしているけど、風は涼しくて気持ちがいい。きっと夜は晴れてくれるんだろうな、とか。いろんなことを考えながら見上げては見るけれど、私は夜に屋上には来れない。風邪を引いたらどうするのと前、友達に怒られてから、病気が治るまでは夜に外に出るのは避けるようにした。夏なら、大丈夫かもしれないけど。

腕時計は一度も持ったことがないし、病院内で今まで生きてきた人生の16年間のほとんどを過ごしてきた私には必要性が見つからない。可愛い服もあまり着たことがないし、どちらかと言うと病院で過ごすためのパジャマを可愛いものを選んでるだけ。制服に腕を通したのも数えた方が早い。ランドセルは沢山背負えたが、その回数も元気な子達に比べたら、圧倒的に少ない。中学に至っては制服すら飾ったままだった。

要するに私は世間で言えば、病弱で学校に通えない、友達も居ないまたは少ない、可哀想な子なのだ。…自分で可哀想というのも気が引けるが。勉強はさほど困っていない。お母さんが、私が小学校3年生の時まで高校の先生をしていたから、高校2年生の内容までは私も理解できる。今は、たしか、1月の末。あと少しで同い年の子たちは高校1年生も終わりを告げ、2年生が近づいてくるのだ。

そして、私はやっと高校に入学する。近頃は来てくれない、友達と同じ学校だ。風邪でも引いたのかな、と思うけど、私は長い入院生活のため携帯も今回の高校入学で初めて持つことになる。

本来なら、高校に行くだなんて心臓病の私にはもっての外だった。ましてや心臓病が進行してる私には。だけど、つい最近。ドナーが見つかった。同い年くらいの女の子だったらしい。名前とか住所とかは、ドナーの規定により教えてはもらえないけど、忍足先生(私の主治医の先生。小さい頃からお世話になってるの)にそれだけは教えてもらった。そして、心臓移植をした私は、4月。つまり高校2年生になる時、氷帝学園高等部に編入が決まっている。

近頃来てくれない友達が、氷帝に通ってるんだ。多分、学校に行けば会えると思う。クラスを聞いたことは無かったし、大きな学校だと聞いているけど、きっと。




「葵、ここに居たの」
「、お母さん」


後ろからお母さんが笑顔でそう言った。もうここに来るのも最後だから。そう言えば、そうねと綺麗に微笑んでくれた。


「お母さんとお買い物に行かない?外出届けはもう出してあるの」
「お買い物?」
「そう!葵が元気になったら、お買い物に行きたかったの!お洋服とか、学校で使うものとか、買いに行きましょう?」
「うん!」


人よりスタートは遅くなったけど、私はもうすぐ高校生になって。多分、友達を作って、遊んで。大学生になる。心臓病で入院(まだ入院中ではあるんだけど)している間は想像もつかなかった未来が、私の前にも広がってるんだと思うとわくわくした。


120225
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