王位継承者
ぱらり、と俺が離した紙が音を立てて、机の上に落ちた。騎士、か。

騎士、というのは。
王に仕える特別な貴族出身の人を指す。『騎士』の家系から王に近い年の者が選ばれる。つまり、俺―幸村精市―の騎士は、20そこそこぐらいの若者になると言うことだ。まあ、王座を継ぐのはまだまだ先だが、俺も時期に20になると言うことで騎士と馴れ合っておいた方がいいという、父親の判断だ。
今の王である父親とは、あまり関わりがない。式典などで会うけれど、それも俺が病気がちであり、すぐにかえってしまう。俺は、国のど真ん中にある王宮ではなく、自然溢れる、ただし中央区の離宮に住んでいる。母は、ずいぶん前に亡くなった。母は、蒼の国の貴族であり、俺の父親に嫁いだ。そのため、父親は王族特有のブロンドだが、俺は母親譲りの蒼の髪だ。ちなみに、幸村、というのは名字制度がないこの国で唯一名字を持つ、王族だけの名字だ。



「精市?どうかしたのか?」
「ああ…弦一郎。…まだ、王でもないのに騎士だなんて、てね」


そう言えば、弦一郎は苦笑いをした。
俺の幼馴染であり、この国で貴族という立場を持つ奴だ。もっと詳しく言えば、貴族の中でも格別とされる『騎士』の家系の出身。黒髪は珍しいけど、少し茶色も入っている。それに、貴族に黒髪が多いのはそれほど珍しいことではない。逆を言えば、この国でも少ない黒髪は殆どが貴族で、それ以外はあまり居ない。そう言えば、侑士は漆黒の髪を持っている。侑士というのは、俺の側近、という立場を取る丸眼鏡だ。伊達だから俺と弦一郎と居る時だけは外してるけど。この国では珍しい暗い青に近い黒の髪を持つ、王族付きの聖職者だ。その昔この国が出来た際に、紛争が起こった、緑の国に近い地域で使われていた訛りを好んで使う意味の分からない奴。


俺は王族で、もっと率直に言うと父親がこの国の王だから、王子様ってことになる。時期王位継承者だ。俺の髪は母譲りだと前で述べた。その母は、春の夜の夢で、亡くなった。



春の夜の夢。
これは、俺の父親の兄、当時のこの国の王が起こした騒動だ。騒動、と言ってはいけない内容であるけど。兄王は、王宮に火を放ち、止めようとした家来たちを切り殺したという話だ。元々、弟である俺の父親に信頼が傾きつつあったことを妬んでいた兄王は、その騒動の中で俺の父親を殺そうと思っていたと考えられている。もっとも、俺の父親が兄王と対峙し、痛手を負わせ、そして王族追放をしたらしいが。その傷が原因で兄王は亡くなったと考えられている。
そして、その騒動の中で、侑士の両親は亡くなった。あいつの両親は、兄王の側近だった。


「そないなこと言うても、精市さん。名前と顔だけは覚えてくれんと困ります」


そう言って扉を開けて部屋に入ってきたのは、侑士。聖職者っぽい黒のローブを羽織っている。こいつは、頭が良い。将来は参謀、という位置を取るんだろうなと考えた。
侑士は、両親が死んだ後、今の俺の父親の騎士である、財務大臣に引き取られ育てられた。小さな頃からこの離宮に出入りしていたのは、侑士に言わせれば財務大臣の思惑だ。財務大臣には子供が居ない。そこに、騒動を起こしたとは言え前王であった兄王の、側近であった二人の子だ。聖職者として名高い人達だったと聞く。父親の方が侑士と同じ髪をして、母親の方が茶色に金が混じった髪をしていたらしい。由緒正しい聖職者の子。それを引き取り養子として実の子同然に育てた。二代続けて、騎士を、輩出するために。ただ、それは侑士が笑って否定した。育てられこそはしたが、侑士の出はあくまでも聖職者であり、財務大臣の家ではない。聖職者として参謀の位置を取れはするけれど、騎士にはなれないのだ。


「そろそろ収集をかけんとあかんで」
「分かってるよ」



俺はそれに溜め息を交えて答え、俺の騎士となるそいつらの書類をもう一度手に持った。



20120913
やっと幸村登場です
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