届いた手紙は

「どうしたの?父さん」



夜。
夕飯を食べ終わり、兄さんが今日会ったミサについて景吾と話していた。なんだかんだ言ったって、教会、特に子供達の様子を景吾は気にしている。口が若干悪いけれど、それは景吾の父様が悪かったせいだと前言っていた。景吾の口から景吾の父様のことを聞いたのはそれが最初で最後だった。…まあ、景吾は気にした様子がないからいいけど。景吾は子供好きで優しい。ご老人にだって手を差し伸べる。そんな景吾がミサがあまり好きではないのは、ただ単に司教という立場が嫌いだからだろう。嫌いというより、学者としての仕事の方が好きだと言っていた。
私は、父さんにちょっと来てくれないか、と言われ、楽しそうに話している2人を見てから父さんの後をついていった。父さんはあまり使わない奥の部屋へ向かっているようだった。そこは、倉庫として使っているもので、あまり私も入ったことがない。




「なまえ、こっちだよ」



父さんはそう言って綺麗な純粋な茶色の目をこちらへ向けて、微笑んだ。
父さんはとても綺麗な金髪に茶色の目をしている。目の茶色は謙也兄さんとはまた違った茶色で、この国でも珍しいぐらい綺麗な、大切にされる色だ。金髪も私の金髪よりずっと澄んでいて、綺麗な金髪。この国でもなかなか居ない。でも、父さんは自分の色より、私や景吾の色が綺麗だとよく笑う。茶色でない色程、綺麗なものはないと言ったこともあるし、謙也兄さんの色も好きだと言っていたこともある。たぶん、父さんは父さん自身の色が嫌いなんだと思う。
父さんは部屋の奥へと進んで行き、私はそれを追った。
父さんは名前を「はじめ」と言って、字は「元」と言う。この国は王族しか苗字を持たないから、みんな名前で呼ぶのは当たり前だ。そのかわりに、「はじめ」という音しか知らない。家族や親しい友人以外は名前の漢字を知らない。そういう暗黙のルールというかしきたりというか。そういうのが皆の身体の中に染み付き、常識になっている。それは、宗教の関係もあるのだと景吾が前言っていた。




「これを、預けておこうと思ってね」
「…これは?」



父さんはいくつも並ぶ本棚から迷わず、封筒と黒の巾着、そして赤い表紙の本を取り出した。父さんが私にそう言って私に渡したのは大きな茶色の封筒と、黒の袋だった。黒の袋は巾着みたいになっていて、中には色々なものが入っていると形で分かった。赤い表紙の本も私に渡した。私がそう聞けば、



「いいかい、なまえ」


ただ、真剣な顔していた。私は父さんを見た。



「自分の色を恥じてはいけない。お前の色は綺麗なんだ。景吾の色も、謙也の色も。母さんの色も、景吾のお母さんの色も綺麗な色だ」
「うん」
「…これからね、大変になるんだ」



そう言ってから父さんは近くにあった椅子を引いてきて、座った。私も近くにあった椅子に腰掛けた。父さんは、本当に心配しすぎというか。私の色を気にかけてくれる。
そして、父さんは言った。



「大変になるだろう。たぶん、なまえ。その時に頼れる人は少ない。ただ、父さんと謙也と景吾は味方だから。頼るんだよ」
「うん。分かった」
「それとね、こんなのが届いていたよ」




そう言って父さんはポケットから小さな封筒を取り出した。
宛名は私。「イーストシティ・第4区・第3町・町病院・なまえ殿」と書かれている。



「開けていい?」
「勿論だよ。たぶん、いい知らせだよ」



そう笑った父さんに私は封筒を開けて、中の手紙を取り出す。
内容を読んで、笑顔になった私に、父さんは笑顔で言った。


「頑張ってくるんだよ」



そう言って私の頭を撫でてくれた。
そして、約束をした。本当に大変だという時が来るまで、茶色の封筒も黒の巾着も赤い表紙の本も、決して中身を見ないこと。私はそれに頷いた。
奥の部屋を出た父さんに続いて私も出て、自分の部屋にまず戻った。預けられた3つのものを白い使わなくなったローブにくるんで、タンスの一番下に入れた。それから、私はさっき渡された手紙を持って父さんと謙也兄さんと景吾の元へと走っていった。



『なまえ殿。
貴殿へ、中央区中央病院への召還を求む。
ここに、医師試験第1次試験合格とともに、第2次試験への招待を記す。

この手紙を忘れずに持参し、次の木曜日に参上されたし』



120621
なかなか話が動かない…
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