目指すものと憧れは
「ほな、出かけてくるな」
「うん。行ってらっしゃい、気をつけてね」




日曜。私が住んでいる「黄の国」はどこの地区でも週7日あり、1月は基本30日か31日で構成される。休みは身分が高ければ土曜、日曜と休みがある。一応医師の規則としては週2日制の休みだけれど、父さんと謙也兄さんの考えとここが「イーストシティ」であることから私達の休みは日曜のみ。私は医師の免許を取得のため勉強中…というか、つい先日免許の為に試験を受けてきた所。あと3日もすれば結果が届く。
その日曜日に謙也兄さんはいつも通りに玄関口に立った。普段は着ている白衣も今日は着ておらず、こげ茶色のズボンに上は明るいピンクのYシャツを着て、ベルトの部分にお気に入りの小さくあまり目立たない茶色のウェストポーチをつけていた。遠くに出かけるのなら、この服装にネクタイと濃い色のジャケットを合わせるのが謙也兄さんのスタイルだけれど、今日は遠方へ出かける訳ではないので、ラフな格好だ。ラフ、と言ってもこの「イーストシティ」では珍しい格好なのだけれど。片手に持っているのは白のローブで帰りはローブを被ると言っていた。…今日は砂っぽくないし、遺跡近くを歩く訳でもないのに。ましてや、民族衣装だからと言って、必ず着るものではないし。…謙也兄さんせっかく格好いい格好してるのに。私達みたいな「色」じゃなくて、綺麗な茶色をしてるのに。
そして、謙也兄さんは眉を下げる様に笑うと私の頭を少し乱暴に撫でて、ほな、ともう一度言ってから家を出ていった。


「謙也はどこに行ったんだ?」
「…景吾、あなた仮にも司教でしょうが」
「…ああ、今日はミサか」



そう隣で眠そうにお茶をすすっているのは景吾。司教でもあるけど、毎週あるミサには月に2回だけ出ることになってることから、今日は出ない日らしい。食卓に座った景吾の向いに座る。そう。謙也さんが行ったのは近くの教会のミサ。謙也兄さんは宗教心が深い訳ではないけど(本当に宗教心が深い人だと、医師と軍関係の仕事には絶対に就かない)、子供好きな謙也兄さんはミサに集まる子供に会いに行ったりしてる。謙也兄さんは、老人の方々にも好かれてるから、その方達にも会いに行ったり。




「お前は行かないのか?」
「うん。今日は行かないの」




どうして、と不思議そうにする景吾にどうしてだろうねと返した。本当に、どうしてだろう。いつもは謙也兄さんについて行ったり、景吾と一緒に行ったりするのに。今日は家に居たい気分みたいで。すると、景吾は小さく笑い、飲んでいたお茶の入っているカップをテーブルに置くと奥の部屋へと向かって行った。どうしたんだろう、と思っていれば、一冊の本を取り出してきて、さっきの位置へと座った。軽く、ふっと笑ってから、




「第3章、16言。ある神曰く、」



汝の願う道、苦難とともにあり。避けるもよし。進むもよし。さすれば、汝の先見えてくる。


「…なんていう、神様のお言葉?」
「全知全能の神だな。14の神とは別に居ると言われている父なる神の言葉だ」
「今の言葉、初めて聞いたわ」
「そのはずだ。…元さんの言葉。無理に医師にならなくてもいいのにって」



私はそれに、持っていたカップをテーブルに置いた。それを見て、景吾は小さく笑みを浮かべてから持っていた本をめくっていく。



「…医師になりたいのは、私の本心よ」
「でも、中央区に行ってみたかったんだろう?」
「…でも、父さんや謙也兄さん、景吾と離れて暮らすのはいやよ」



それに。そう呟いた私に景吾は視線を送ってくる。それに。…それから少し黙ってしまった私に景吾は持っていた本をめくるのをやめて、そのまま私の正面へと進めた。




「これが、14の神以外の神。…この瞳が綺麗な女神が美の神だ」



景吾が指さした神様は、黒髪の女神様だった。でも、目の色が違う。…私と景吾と同じ。スカイブルーだ。綺麗、だった。私達の色だからとかそんな贔屓目とかはないけれど。普段茶色を見慣れているせいか、少し刺激的な色だけれど、今日の空の様な色だ。




「…だから、その目の色は気にするな。俺だって同じ色だし、言いたい奴には言わせておけばいい。…だから、自分の色に自信を持てよ」




そう言ってくれた景吾に、違うのと私は返した。
おそらく、景吾も父さんも、おそらく兄さんも。私が医師になりたいって言ったのは自分たちに気を使ったからじゃないかとか、年頃の娘なら思うであろう、中央区への憧れとかを、考えたんだと思った。景吾は怪訝そうにし、




「…最近、嫌な感じがするの。まるで、」


母さんが死んじゃった時みたいな。
120602
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