では、出発しようか
そのまま景吾は駅から離れて行き、どんどん街の中へと入っていく。一つの喫茶店の近くにまで歩みを進めた。どういうことか分かるかと視線を寄越す蓮二に、私にも分からないと肩をすくめてみせた。そして、景吾は喫茶店前で足を止めてその前の席に座る人物に声をかけた。

「滝、頼みがある」

それに応える様に席に腰掛けていた人物は顔を上げた。景吾を見るその目は帽子を深めに被っていたけど、藍色の目であることは分かった。綺麗な藍色だ。その人は笑みを浮かべてから、景吾を見て、そして私と蓮二を視界に入れてほんの少しだけ目を見開いた。

「…いいよ、景吾。君の願いであるのなら」

そう言って微笑んで立ち上がった人物はおいで、と私達を先導する様に歩き出した。




「ほう、」
「は…?」
「これは…」

驚いたのは私だけではない様だった。3人がそれぞれ反応を示し、先ほどまでフードを被っていた藍色の髪の人物は笑みを浮かべた。滝、と景吾に呼ばれた人は、さて、と切り出す。手には、シンプルな鍵が握られていた。
私達の前にあるのは、深い青、どちらかというと紺の色をした、四駆と言っていいのだろうか。私はそもそもイーストシティから出るなんてことが滅多にないので、車の種類には詳しくない。だけれど、大きな車体は大きなタイヤの上に乗っかり、外から見る限りは4人乗りの様だ。

「景吾、これでいいかな?」
「ああ、滝ありがとう」
「お礼なんて別にいいよ。景吾の頼みなんだし、それになまえさんが居るんだしね」

そう私を見て微笑んだ滝さんはああ、と手を打った。自己紹介をしていなかったと言った滝さんは右手を差し出して微笑む。

「滝萩之介だよ、よろしくね」
「なまえです…って、え?名字付き?」
「ああ、出身の国籍は蒼の王国にあるから」
「…どういうことだ?景吾」

蓮二はそう言って景吾を見る。物珍しそうに車を触っていた景吾は、笑みを浮かべて振り向いた。笑みを崩さないままに景吾は言った。

「そのままの意味だ、蓮二」
「…今現在として、蒼の王国と我が国は、国交が途絶えている。常識だろう?だから、」
「蒼の王国の者である俺が居るのはおかしい。そうでしょ?」

滝さんはそう言ってまた笑みを浮かべた。蓮二は景吾と滝さんを交互に見て、説明をと促す。景吾は滝さんを一瞥してから自分はまた車へと視線を移す。滝さんは小さくため息をついてから、また笑顔を見せる。

「景吾と俺は小さな頃からの知り合いでね。たまにこうして会うんだよ。それに、蒼の王国−俺はそこの出身だから、蒼の国って言ってもいいよね。…あの悲劇の日までは、二国間には国交があった。そうだろう?」
「ああ。そうだ。…だが、あれからは、国交どころか、いつ戦争になるか分からない状態が続いているはずだ。…見た感じでは、それより前からこの国に居る訳ではないだろう?」
「ああ。俺は、今も蒼の国に住んでる。ああ、罪だって自覚はあるよ」

そう言って滝さんは胸元に手を入れて、長いペンダントを引っ張り出した。首にかけている様で、太陽の形をした銀色の丸い円盤がついている。それに、軽くキスをした滝さんは言った。

「…俺はこう見えても、蒼の国の聖職者なんでね。さて、話はここまでとしよう。急いでいるんでしょ?景吾」
「ああ、近道してくれ」
「なんで?近道なんてしなくても3、4時間で帰れるよ」

そう言って景吾に笑みを送った滝さんに、景吾は振り向いてその蒼い目で鋭く睨む。それに私も蓮二を息を呑む。知らない。こんな、景吾も、景吾の視線も私は見たことがない。まるで氷で凍らせられた様に動けなくなる。

「…なまえさんに関係があるの?」
「十中八九な。あと、謙也と元さんに」

それを聞いた滝さんはさっと顔に青を指し、すぐに用意すると言って走ってどこかへ行ってしまった。蓮二と私は立ち尽くしたままで、景吾が私達に視線をやる。先ほどまでの凍った視線ではなくて、いつもの目だった。蓮二さんは、とんでもない従兄弟を持ったなと含み笑いをして、でもこの話には乗ってくれる様で。

「…いいのか?蓮二。これで犯罪の片棒を担ぐハメになるかもしれねえんだぞ?」
「さあ。なんのことだか。俺は汽車が止まっているから、車に乗れるという話に賛成しただけだ。滝が蒼の王国出身なんかという事実なんて知らないなあ」

わざとらしくそう言ってみせた蓮二に景吾も滝さんも笑ってみせた。


121130
早くまた謙也出したい。…と言っても次出ますが。
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