色の違いと一時の別れ
扉の向こう。そこは、やっぱり地獄だった。

「…名前を言って下さい」
「なまえです」
「…では、今から、二次試験を開始します」

私の姿を見た途端顔を歪めたり、驚いたり、目を見張ったり、そんな6人の試験官。私はため息をつきそうになった。
そんなに、この色が珍しいの?
色を理由に落とされることはない。景吾がいい例。大丈夫。私は自分を信じればいい。この、色ごと。





「よお、なまえはまだなのか?」

俺と蓮二さんの二次試験が終わり、終わった者は決まりにより会場の中には居ることができん。玄関横で待っとってくれた蓮二さんに聞けば、まだなまえさんは終わってないらしい。そのままそこで待とうと壁に背を預けた時やった。そう声がかかり蓮二さんと共にその声の方へと顔を向けた。案の定、なまえさんの従兄弟だという人が立っていた。

「ああ。まだだ。…ところで、いくつだ?」
「あ?」
「俺より年上なのならば、敬語を使うべきだろう?」

違うか?と微笑みかけた蓮二さんにその人は笑みを浮かべた。そして、前髪をかきあげる。…深い蒼の目が、はっきりと目に入る。なまえさんより、深い蒼だ。なまえさんより、差別される色。
この世界は間違っている。色が、違うだけで、差別される。同じ、人間のはずして。色を違う奴を嫌う。その中で、この人も、なまえさんも生きてきた。俺は黒の髪こそ持ってはいるけれど、茶色も混ざっているし、黒の髪は優遇される。珍しい色ではあるが、差別の対象にはならない。それに瞳の色は黒であるから、差別されようがない。でも、この人達は違う。単なる色が違うだけで、差別される。それは、一体、どういう気持ちなんだろう。

「この色を、なんとも思わないのか?お前達は。変わった奴だな」
「…そうですか?普通に綺麗やと思うんですけど」
「ふっ。本当に、面白い奴らだ」

そう言ってその人は右手で両目を覆うと空を仰いだ。そして、息を吸って、静かに手を下ろした。俺はその一連の行動を見て、光に反射するその人の髪を見た。一瞬、煌めいた綺麗な金めいた茶髪が、その人の目と同じ蒼の色に見えた気がした。

「俺はケイゴ。なまえと同じ19歳だ。よろしくな、レンジにヒカル」

そう言って笑った景吾さんは、そのまま字も教えてくれた。俺にはこんな決まり関係ないから、と言ってみせた彼はなんだか悲しげに見えて、俺はよろしくお願いしますとしか返せなかった。蓮二さんは、俺より年下か、と言ってそのまま字も教えていたりしていた。

「あ。景吾!蓮二に光、待った?」
「さっき来たばかりだ。どうだった?」
「うん、まあ…あんなもんじゃない?」

苦笑いする様に言ったなまえさんは、そのまま綺麗な蒼の瞳を細めた。それに同じ様な目をしてみせたのは景吾さんやった。二人は、色もそっくりなら纏わす雰囲気も同じものである。そして、俺達とはなんだか違う壁の様なものも感じれる。色が違うだけで。…そう言う俺も、色が違う。黒色の髪。だけれど、違う色の中で、唯一と言っていいぐらいの待遇を受けるのが黒髪。しかも俺の場合は先祖代々黒髪の家庭。だから、俺は、

「は?こいつらを家に呼ぶのか?」
「うん。光は違うよ。蓮二だけ」
「…どうすんだよ、帰りに買い物してこいって元さんが」
「帰りの買い物は私のでしょ?必要なものとかの方は済ませてあるんでしょ?」
「…まあ、いいだろうけど…」

そう言って笑ったなまえさんに景吾さんは苦笑してみせた。






「ほな、俺はここで」

光はそう言って頭を下げて俺達を見送った。ああ、と手を上げて答えた俺は、隣に居る景吾となまえを見る。二人も笑って見送っていて、光が去ったのを確認すると、駅内へと歩みを進めた。そして、景吾が信じられないと言った風に声を上げた。

「はっ?!ちょっと待てよ…!」
「どうしたの?景吾、」

そう景吾に声をかけたなまえも景吾と同じところを見上げたまま息を呑んだ。二人の視線の先には、『列車緊急停止』の文字。イーストシティ行きは全ての列車が運行停止になったという掲示がされている。焦る二人に俺が駅員に事情を聞いてこようと提案すれば、二人は動揺したまま頷く。二人の様子、そして容姿を考えればこの場面で俺が聞きに行くのが得策であった。そして、駅員が伝えられた内容に若干驚きつつも俺はそのままの内容を二人に告げた。真っ青になったのはなまえで、焦り思案し始めたのが景吾であった。
『イーストシティのB地区の指名手配犯が潜伏していることが発覚し、軍が向かった』という理由で列車は止まったらしい。なまえ達が住んでいるのはイーストシティのB地区だ。なまえは家族が心配で真っ青にしているのだろうし、景吾は駅の時計を確認してから、よし、と小さく呟いた。

「…二人ともよく聞いてくれ。…このまま俺達は帰る」
「だが景吾、列車は止まっている。…どうするんだ?」
「…車を使う」
「え、でも景吾、運転出来ないでしょう?」
「ああ」
「…蓮二は?」
「情けないことだが、22になっても運転免許は持っていない。…だが、運転ぐらいは出来るぞ。免許が無いから検問は突破出来ないが」

それは危険すぎるとなまえが言った。すると景吾が、笑みを浮かべた。

「…着いてきな。検問すら問題にならずに俺達がイーストシティに帰ることが出来る方法が1つだけある」



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