君は誰 | ナノ

きみはいったい誰


名前を知らん、可愛ええあの子。
絶対、探し出したる。


そう息こんで俺が向かった先は、同じクラスの前の席の、奴。さっきまで部活の朝練で一緒やった。普段から何かとお前はおかんかと、ツッコミたい奴やけど、それを俺を含めたレギュラーの誰もがやらへんのは、それを言ってしもうたら、なんか終わってしまう気すらするから。どんなボケでも反応するんやけど、これこそ突っ込んではあかん気ぃがする。そして、だからこそ、こいつはありえへんくらい役に立つし、顔が広い。俺もまあまあ広い方やけど、こいつに比べたら、負ける。
あと、こいつを頼る理由は、もう一つある。どっちかっちゅーとこっちのが大きい理由で。





「…て、訳なんやけど」




そう俺が話し終えると、プルプルと包帯をぐるぐる巻きしたある手を握って作った拳を震わした白石は、突然ガタンっと音を出しながら立ち上がった。顔を見れば、目はキラキラしとる。そして、叫んだ。




「エクスタシー!!応援するでえ!!謙也ああ」




白石蔵ノ介。俺の親友でもあるこいつは、意外…でもないかもしれへんけど、恋バナが好きな奴で、恋のキューピッド的なのになるのも好き。まあ、片思いしてるのがこいつにバレたら、速攻くっつく様に色々やられる。財前とその彼女やって、こいつが彼女ちゃんの片思いに気付いて(なんでも同じ委員会やったらしく)、財前に彼女ちゃんのことさり気なく勧めたりしとって。…まあ、同じぐらいの時期に俺も財前が彼女ちゃん好きっちゅーこと知っとったけど。……とりあえず、そのあとのぐだぐだしとった財前と彼女ちゃんをくっつけさしたんは、こいつや。




「声デカいわアホ!座れや!」
「あ、ああ。堪忍なあ。ドラマっちくで興奮した」



…こいつに話すん、間違えたかもしれん。


まあ、そのあと、授業を受けて、昼休みになってから弁当食いながらその話になった。




「でー、謙也は、その子ん特徴、覚えとるん?」
「あーんとなあ…」



そう言われて、俺はその子を思い出す。…めっちゃ、可愛かってんなあ…。そう思っていれば、白石の毒手の方の手の手刀が落ちてくる。勝手にワープすんなと言ってきた白石にすまんなあと言って、俺はその子の特徴を話した。

身長は160前後。
髪は肩につくづらいで、毛先がふわっとカールしとる。
ぱっちとした二重まぶた。




「…なんか、絵に描いた様な可愛ええ子やない?お前、妄想やないやろな」
「なんでそんなことせんとあかんねん」



そう言えば、白石はあ、と声を上げた。なんやねん、と思ってみれば、



「校章は?見んかったん?」
「あ」



そう言われてから、気付いた。
この学校。随分変わっとって、校章の色が学年ごとに変わる。1年が銅で、2年が銀、3年が金や。せやから、俺らの学ラン(と言っても黒の詰め入りやないけど)の右襟にはクラス章と銀色の校章がついとる。女子は胸元のポケットに校章をつけ、クラス章はクリップ式になっとるから、そこのポケットにクリップではさむ決まりやった。



「見んかったわ…」
「あほか、お前は」
「あ、でも、クラス章は見たで!」
「でかした!そっちのが重要やわ」



確かあれは、6組やった。










「なまえー。おーい」
「あ…なあにー、沙良ちゃん」



顔の前でぶんぶんと手を振られ、はっとなれば、沙良ちゃんがこっちを見ていた。…やっぱり沙良ちゃんは美人さんやなあ、と思う。沙良ちゃんは、1年ながらあの有名なテニス部のレギュラーやっとる、財前君の彼女で。財前君もこれまた格好いい人やから、二人が並んだ時の私の敗北感と言ったらこの上ない。



「そうや、あの日、人とぶつかったって言うとったやん?大丈夫やったん?」



あの日。
あの日とは、私がプリントを運んで居た時で。…そうやった。




「…その日、忍足先輩とぶつかったんよ」
「…うっそ!ほんま?!」




そう聞いてくる沙良ちゃんに私は、うんと頷いた。
あの日、ぶつかった時、すごくドキドキして。…ちゃんと笑って居られたか、分からない。…それくらい、私は忍足先輩が好き。ちゃんと、話したことなんてないけど。いつからか、財前君を見ていくとたまにテニス部に寄る沙良ちゃんについっていって見てるうちに、いつの間にか。好きになっとった。
あ、でも、一度だけ、飛んできたテニスボールを拾って忍足先輩に渡したことがある。忍足先輩はおおきにって笑っていて。すごく、格好よくて。真っ赤になって沙良ちゃんにからかわれたのを覚えとる。
120627

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