昨日、跡部を訪ねてきた女子。
名前をみょうじなまえ。忍足と香月のクラスにイギリスからの転入生として編入してきた。明るい茶色の髪は背中の半分ぐらいまで伸びていて少しカールしていた気がする。目の色は薄いグレーだった。
跡部の幼馴染らしい。


「…それくらい?」
「まだ編入して2日だぞ?そんなに早く情報回る訳ねえだろ」


そう聞いた滝に宍戸が答えた。それに頷いたのは鳳。今、あの場に居た全員がここに居る。今朝の朝練が休みなのを利用して俺達レギュラーは、談話室の一番奥の部屋を陣取り、集まっていた。勿論、跡部と樺地抜きで。いつも朝練の時間は俺は眠っているけど、今はそんなことはどうでもよかった。


「…あいつ、跡部のなんなんだよ」
「跡部さんの幼馴染だって言ってたでしょう、向日さん」
「そりゃ、知ってるよ!」
「俺も気になんなあ…。あの子が、幼馴染とは言え、跡部にとってどれくらいの奴なんか」


がっくんと日吉。そして忍足がそう言った。一人ずつ発言したことで視線が自然と俺に集まる。まあ、まだ日吉は準レギュラーだけど、あの時(幼馴染が訪ねてきた時ね)に居たし、レギュラーに一番近い準レギュラーだし、ってことで参加中。


「…どんな子か知らねえけどさあ、跡部に向かって、テニスをやめたんじゃなかったのって言ってたC?」
「…だからこうやって集まってんだろーが」
「どちらにせよさあ、跡部からテニス奪うんだろ?」


『テニスをやめたんじゃなかったの』って言ったってことは、みょうじからすれば、跡部はもうテニスをやめていたはずで、でもこうやって続けていることに対して絶対いいと思っていないだろうって、皆が思ってこうやって集まってる。


「十中八九そうでしょうね」
「…跡部さんの大事な人っぽかったですけど、それを武器にやめさせることだってできますからね」


鳳、日吉とそう呟けば、滝がぱんぱんと手を打った。


「じゃあ、こうしよう。忍足がみょうじさんを一日観察。あとのメンバーは様子見。幼馴染でもすごく仲良くなければ関わらないだろう?関わらないって可能性もない訳じゃない。だったら暫く様子見してみようよ。明日また部活が始まれば、何か分かるかもしれないし」


…要するに、みょうじは今のところ俺の敵。
あんなに、わくわくするテニスをする奴、なかなか居ねえのに…。なんで、跡部からテニスを奪おうとするの。

そして俺は昼休み、いつもの通り中庭に来ていた。昼飯はさっき宍戸にチーズサンドつまぐいさせてもらったし、滝にサンドイッチ買ってきてもらって食べた。いつもの場所に寝転がり、目を閉じようとした。でも、すぐにやめた。
みょうじを見つけたからだ。

滝が教えてくれた様に、みょうじの髪は背中の真ん中辺りまで伸びていた。制服は少し崩した感じだけど、一般生徒が崩す感じなので、別にやり過ぎって訳じゃなかった。みょうじは携帯を耳に当てている様だから、電話している、のかな?でも電話の内容は聞こえない。すぐに切ってしまったけど。そして、俺が寝転がっている場所に近いベンチに腰を下ろした。中庭と言ってもあまり生徒は来ないし、校舎の中からも見えない。だから俺のサボりスポットだったのに。最悪。
すると、ベンチに腰掛けたみょうじに近づく影が見えた。すると、みょうじは嬉しそうに笑って。それがムカつくぐらい綺麗で。それに応える様に跡部も右手を軽く挙げて、みょうじの名前を呼んだ。


「景吾、早くここ」
「分かってる」
「おば様にね、教えて頂いたの。摂取する栄養のバランスを整えるだけでも、随分変わるって」
「ああ、そうだな。だからか、最近忙しくない朝は母様が弁当作ってくれてんだ」
「あら、おば様に教えて頂いて今日のお昼は私の手作り」


そう言って少し大きめの紙袋を見せたみょうじに跡部は優しく笑ってから、頭を撫でる。…いつもの、俺達が見てる、『レギュラー』としても、生徒会長とかそう言う目で見てない俺達に見せる、笑顔とは違って。初めて見る笑顔だった。


「ありがとう、なまえ」
「私が好きでやってるから、いいの。…今日、景吾はお仕事?」
「ああ、部活は無いが生徒会の仕事がある」
「…そう、分かった。…絶対むねを傍に置いてよ?」
「分かってる。…なんならお前も来るか?生徒会長室ならバレないだろうぜ」


そう言って跡部はまた笑った。

あとのメンバーは様子見。幼馴染でもすごく仲良くなければ関わらないだろう?

滝の言葉が頭を過ぎった。無理だよ、滝。…関わらない訳ないじゃないか。

120609
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