景吾はそれから教えてくれた。
イギリスに居た頃の主治医も呼び寄せてから、もう一度検査したこと。結果は変わらなかったこと。自由なことをする権利が与えられたこと。おば様とおじ様…景吾のご両親は、昔から言っていた様に、ただ自由にしたいことをすればいいと言ってくれたこと。

だから、テニスを始めたこと。



私はただ、景吾の話を聞いた。景吾は最初は少し悲しそうに話していたけど、テニスの話、それもテニス部の話になった時はすごく嬉しそうに話す。全国を取ると楽しそうに。

あの人達が、仲間だと、嬉しそうに。


むねもそれに嬉しそうに、頷く。


「黙ってたこと、本当に悪かった」


そう景吾は話し終えるとそう言った。私は静かに首を振った。


「…知らされていたら、私は頭ごなしに否定しただろうから。でも、景吾、楽しそうで、すごくよかったなって思ったの」
「…なまえ」
「今は?」


そう私が問いかければ、一瞬間を置いて、景吾は目を細める。


「幸せだ」


即答した彼に私も同じ様に笑った。そして、景吾はすぐに私に優しくもう一度笑みを見せて、


「…好きなことが出来て、仲間や友人に囲まれて。俺は、人より寿命が短いけど…」
「…景吾…」
「…今、すごく幸せなんだよ。…なあ、なまえ、」
「…なあに?」
「…お前さえよければ、一つ聞いてくれないか?」
「もちろんよ。…私は景吾のそばに居たくて、何かをしたくて日本に来たのよ?」


そう言えば、また嬉しそうに微笑む景吾に、むねもでしょう?とむねに聞けば、自分も同じだと英語で返ってくる。それを聞いた景吾は、目を少し見開いて、でも、すぐにまた笑顔を見せてくれた。なんだか、悲しそうな笑顔だったけれど。そして、そのまま私達に言った。正確には、私にだ。一度、崇弘には言ったんだが、と小さく景吾が言うとむねは薄く笑みを浮かべて頷く。


「…もう、俺の人生は少ない。治療をすれば、それはそれで寿命は伸びるだろう。テニスをすることで、こうやって普通の生活をすることで、身体が悪くなってるのも分かってるんだ。でも」


そう言って、景吾は両手を祈る様に合わせた。ぎゅっと握りしめて。


「俺は、ここで生きていたい。我儘だろうけど、俺は…思い出を作りたいんだ、普通に生きていたっていう思い出が。…だから入院はしないし、手術をしない。今は薬だけで、その薬も進行を遅らせるだけだ」


それでも、俺はここで生きていたい。仲間も、友達も、普通の生活も、俺にはもう手放せない。だけど。

そう言った景吾はうつむいていた顔を上げ、


「だけど、なまえと崇弘は一番、安心出来る、大切な奴なんだ。俺が、死ぬまでの、短い間だけでいいから、」


傍にいて、くれないか?


「…当たり前じゃない、景吾の馬鹿」

120521
5season
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