そう呟いてから私は、雪ちゃんにテニス部は今日何時に終わるのかを聞いた。すると、今日の練習は夕方の5時半まで。観客席に観客者が居れるのは5時までだと教えてくれた。今は、5時少し前。ちらほらと周りの観客席の人達も帰り始めて居る。


「…景吾に、会いたいの」
「景吾?跡部君に?」
「ほら、イギリスから来た転校生の噂聞いてるでしょ?なまえちゃんなの。会長と幼馴染みなんだって」
「まあ!跡部君と?へえ…」


そう言って雪ちゃんは、それなら新聞部は5時半、つまり終わりまで残っていても大丈夫だから自分も一緒に残ってくれると言って微笑んだ。そうすれば、めいちゃんは私は生徒会だから会長に用があれば練習が終わればテニスコート入れるから一緒に入ろうと言ってくれた。
二人にありがとう、と言いつつも笑顔が作れているかすごく心配。心の中は、なぜ景吾がテニスをしているのかということしか無かったから。


「あ、終わったみたいだよ?」
「行きましょう?なまえちゃん。幼馴染みの感動の再会よ?」


そう言って、行こう、と私の手を引っ張って立ち上がっためいちゃんと、ふわりと微笑んで立ち上がった雪ちゃん。
ごめんね。…感動の再会、ではないと思う。

まさか、景吾が、テニスを続けていたなんて。

だから、連絡をしてこなかったのかと一人納得した。変に嘘をつくなら連絡をしない方がいいと景吾は判断したんだろうと思う。…私には、景吾の嘘は通用しないから。

景吾は、小さい頃から体が弱く、持病を持っていた。まだ幼かった私は彼からそれを3歳か5歳か…それぐらいの頃に告げられ、長く生きられないかもしれないことも知っていた。だけど、イギリスに居た頃、目立った発作などは見られず、人より少し風邪をひきやすいなどと言ったものだった。でも、確かに景吾は担当医の先生からテニスも極力控えた方がいいと言われていたし、私もむねも、それを重々と承知していた。

…そんな景吾を赤ん坊の頃から傍にいて、人並み外れた洞察力を持つに至った時も、一緒に育った私が、景吾の嘘を見抜けないはずがなかった。


「じゃあ、レギュラーもこれで解散だ。明日はコート整備のため、朝練から休みとするので、各々自主連等を怠るなよ」


コートの入口まで来れば、景吾の声が聞こえる。…約、2年ぶりの、声だった。あの頃とは低くなった声は、聴きやすく心地よい気もする。
目に映る彼は、背も伸びて、ずっと、あの頃より、格好よくなった。

ずっと、会いたかったの。
いっぱい聞きたいことがあるの。
なんで連絡してくれなかったの、とか、なんで約束破ったの、とか、…元気に、してたの、とか。


入口のフェンスの扉を開いためいちゃんは私の手を引っ張って中へと入る。雪ちゃんも私の後ろについてくる。

レギュラーの皆さんは結構近い位置に居て、私達に真っ先に気づいたのは忍足君だった。


「…香月に、一条?それに、みょうじさん?」


その声に雪ちゃんはどうも、と返事をして、その場で私達は立ち止まった。レギュラーの皆さんの視線は私達に向いているはずで、私はずっと顔を俯いた状態にしたままだった。恐る恐る顔を上げれば、不思議そうにこちらを見ている皆さん、そして景吾が目を見開いてこちらを見ていた。景吾の後ろにはむねも居る。


「どうしたんだよ、香月に一条まで。跡部に用事か?」


身長が少し小さめの男子がそうめいちゃんに声をかけた時。
私達に向けられていた景吾の視線が、すっと逸らされ、景吾は一人違う方向を向いてしまう。…待ってよ、景吾。なんで…


「景吾!」


私はそう声を上げて名前を呼んだ。すると、レギュラーの皆さんの視線が私に向けられる。警戒、と言った視線だった。でも、そんなことは気にしてられなかった。

なんで、なんで…


「景吾、なんで無視するの、ねえ」
「………」


私は一歩ずつ景吾にそう言いながら近づいていく。それでも、景吾は私を見てくれない。どうして。なんで。

すると、髪を結った男子が私の腕を掴んだ。


「お前、誰だよ」
「…あなたには関係がないでしょう?私は今、景吾と話しているの。…腕を離してくださらない?」


私がそう言えば、私の腕を掴んでいる彼も、その他のレギュラーの人からも視線が強くなる。ぎりっと、私の腕を掴む手に力が入った。


「…Do you forget?」
「何言って、」
「Become silent. …Keigo,it is a long time truly. I want to see you.」
「…too me.」


そう言ってゆっくりと景吾は私を見て、そして、引っ張っる様に私の髪を結った子が掴んでいない方の腕を掴み、抱き寄せた。
120311
3season
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