授業は楽しかった。
理科ではめいちゃんと忍足君とめいちゃんの隣の席の山田君と実験をして。山田君はサッカー部のエースだそうで、今度見にこいよ!と気軽に誘ってくれた。(忍足君もテニス部にもぜひと言って、めいちゃんに叩かれてた)
英語では先生がイギリス留学をしていたらしく、授業後に話が弾んで。案外住んでいたところが近くて余計話もヒートアップ。
数学はイギリスの方が進んでいたので分からないと言って困っていためいちゃんに教えてあげれば、ありがとうって言われて嬉しかったり。
ただ、苦労するのは国語。現代文と古典と別れていて、現代文はまだなんとかなるけど古典は意味が分からない。中国語とはまた違うし。泣きそうだった。
選択教科はたまたまめいちゃんと忍足君と一緒で。ドイツ語(かフランス語)と世界史(か地理)を一緒に受けた。


あっという間に放課後になり。


「ほな、みょうじさん、香月、また明日」
「?忍足君は帰るの?」
「こいつは部活だよ、ご立派なね」
「なんやご立派って」


めいちゃんはそう言って、肩をすくめてみせた。忍足君はなんやねんと呟いて、ひらひらと手を振って教室を出ていった。
忍足君の話し方は独特でイントネーションとか単語とか、少しずつ違うけど、とっても面白い。聞いていてリズムがよくていいなあって思った。


「じゃあ、昼休みに案内出来なかった別棟と特別館と、なまえちゃんの、会いたい人、探そっか」
「う、うん。あの、ごめんね。なんか…付き合わせちゃって」
「いまさらだよ。気にしない気にしない」


けらけらと笑っためいちゃんは、さあ行こうと言って私の手を引っ張って歩き出した。鞄は二人とも持ったままだ。いちいち教室に帰ってくるのは面倒くさいから持って行こうということになったのだ。

イギリスの学校と変わらないかそれ以上の広さを持つ氷帝学園。めいちゃんは部活は入ってないらしく、その代わり生徒会に入っているらしい。会長がちょっと変わった人で面白いと言っていた。


「とりあえず、知っておきたい所はこれで全部だよ。教室とかまだ色々あるけど、それは必要な時でいいよね?」
「…う、うん」


疲れきった私にめいちゃんはまたけらけらと笑って、レストランの隣にあるカフェに入ってモカを持って二人で座った。さて、と言ってにっこり笑っためいちゃんは私を真っ直ぐ見た。


「なまえちゃんの、どうしても会いたい人って?」
「…あ、うん…。同い年の人なんだけど」


どうしても会いたいのは、景吾とむねだけど、むねのことだから景吾と一緒に居る方が多いはずだし、景吾を探せばむねもくっついてくるよね。何より、景吾の方が特徴がある。


「同い年?どんな人?流石にクラス多くて名前まではさ」
「いっぱいあるよね、クラス」
「本当ね。…会いたい理由とか聞いても?」


そう心配そうに聞いてくるめいちゃんに、私はくすりと笑って言った。


「しばらく、連絡がなくて。何してるのかなとか元気なのかなって」
「そっか。…恋人?」
「え、ええ?!ち、違うよっ、恋人じゃないよ!」
「なまえちゃん可愛いー。いいよいいよ。まだ恋人じゃないってことで」


…そう。めいちゃんに分かってしまった様に。私と景吾の関係性はあくまで幼馴染みだ。でも、私は、ずっと小さい頃から景吾が好きだった。むねも大好き。でも、景吾への好きとむねへの好きは、全然違う。むねへは、家族みたいな好き。景吾へは…恋の好きだった。
離れている間もずっと好きで、連絡がこなくて寂しくて。泣いた日もあった。
でも、せっかく日本にきて、同じ学校に居るんだから。もし嫌われてたり忘れられてたりしても、会いたい。
…景吾が、苦しんでるなら、支えてあげたい。


「で、どんな人?」
「あ、えっと…金に近い茶髪で、綺麗な澄んだ蒼の目をしてるんだけど」
「…べ、」
「え?」


そう言えば、めいちゃんは目を見開いて、小さく言った。でもよく聞こえなくて聞き返せば、


「…跡部。跡部、景吾?」
「そう!めいちゃん知ってたの?クラスが一緒だったとか?」
「…何って…会長だもの。生徒会の」
「生徒会!」


やっぱり景吾はすごいのね!と私がぱん、と手を拍手の様に打って言えばめいちゃんはもう一度目を見開いて、すぐに微笑んだ。モカを一口飲んで、そうだ!とめいちゃんは閃いた様で、ちょっと来て?と言って私の手を握って駆け足で走り出した。



そのままめいちゃんに連れられてきたのは外で、目の前にはきゃあきゃあと可愛らしい歓声をあげている女の子達がいっぱい居る。不思議に思ってめいちゃんを見れば、めいちゃんはにっこりと笑って、観客席に入って行く。まだ手は繋いだままなので私も引っ張られる様に入って行く。一番前で一眼レフのカメラを構えている女の子にめいちゃんは声をかけた。


「雪、隣いい?」
「あら、めいじゃない。いいわよ。?そちらの方は?」
「あ、みょうじなまえです。よろしくお願いします」
「一条雪よ。よろしくね、みょうじさん」


そのまま隣に座らせてもらって、一条さん―雪ちゃんともすぐに仲良くなった。私達が座っているここはテニス部専用の観客席で、基本的にここでの撮影は禁止らしいのだが、雪ちゃんは新聞部らしく、今回はテニス部の特集号を作るからと左腕の新聞部というワッペンを見せてくれた。二人は一番の仲良しらしく、ただ今回はクラスが別れてしまったのだと言っていた。


「テニス部ってそんなにすごいの?」
「氷帝は団体戦でも個人戦でも全国区なの」
「しかも、今年のレギュラーは最強って言われてるの、まあ、忍足も、だけどね」
「へえ、忍足君すごいんだ!」


そうやって言えば、めいちゃんは微笑んで、


「会長も、すごいよ?」


そう言って指差した方向を見れば、そこにはむねが見えた。2年ぶりに見るけど、全然変わってない。いや、確かにすごく大きくなったけど。そして、その隣には、金がかかった茶髪の人が立ってる。


「…え?」
「会長、レギュラーの中じゃトップだし、」
「…どうして?」
「それは、跡部君がテニス部部長だからよ」
「部長?…テニス部、の?」


そうよ、と言った雪ちゃんと。どうしたの?と言っためいちゃん。どちらも怪訝そうに、不思議そうな顔をしていた。

ただ、私はそれより。
景吾が、テニスを、続けていることが、気になって。もう一度、どうしてと呟いた。
120305
2season
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -