春。
イギリスからつい一昨日帰国した、というか生まれも育ちもイギリスな私は日本に降り立つのは実は初めてだったりする。日本語が話せるのはママもパパも英語と日本語、両方ともを織り交ぜて家で使っていたり、日本に居るおばあ様から手紙がきたりと、なんだかんだと日本語には触れていたから。また、小学校を卒業するまで一緒だった幼馴染が日本人だったと言うこともある。
これが日本か、と関心を示す私にママはどこの学校がいいのと聞いてきた。今回、初めての日本帰国は一時帰国ではなく当分の間はこちらに居るということを前提とした帰国であり、一財閥の当主であるパパは今までイギリスで働いていたけど、しばらくはこちらでの仕事になり、そのしばらくも、最低1年ということで私もこちらの学校に編入することになったのである。そして、私は、懐かしき幼馴染の2人が通っているとおばあ様から聞いた学園をママに伝えたのだ。
なぜだか分からないが。仲は良かったはずなのに、幼馴染2人からはさよならをしてからの2年間、手紙の一通も電話の一本も。連絡が一つも無かった。彼らが通っている学園もおばあ様に教えていただいたのはそのせいである。私のおばあ様と、幼馴染の1人のおばあ様はお茶友達、お花友達らしく。私が学園のことを聞いて欲しいと言えば、おばあ様快く聞いてくださった。
そして。帰国2日目。
早々と学園に通いたいと言う私の要望により、私は今日から氷帝学園に通うことになった。幼馴染2人には連絡は入れていない。今日、会って驚かせてやろうと思っている。連絡をくれなかった罰だ。私は年齢的に中学3年生らしく、編入クラスはH組らしい。イギリスの学校も人数多かったけど、この学園も8クラスは最低あるとはなかなかすごい。
幼馴染達に会えなかったら今日家に押しかけることにしよう。おば様達には久しくお会いしていないから、とっても楽しみだ。
ただ。もう新学期は始まっているらしく、私は同級生の人より3日遅れた新学期スタートとなる。ちなみに編入テストは今までの成績を参照するということでなしにしてもらった。
「じゃあ、俺が入ってと言ったら入ってね?」
「はい」
H組とかかれたプレートがかかった教室の前でそう担任の先生に言われて、頷いた。さっき説明を聞いたのだけれど、日本の学校はどうやら大抵を同じ教室で受け、ほとんどの授業は義務らしい。自分で教科を選ぶ訳じゃないらしい。びっくりした。そしてこの制服。すごく可愛いと思う。ブレザーと一緒の色のネクタイに、上着の左胸には氷帝学園のエンブレム。チェックのスカートがまた可愛い。私の通ってた学校は制服じゃなかったから、ずっと制服着たかったんだよね!
「じゃあ、入って」
担任の先生のその声が聞こえ、扉を開ける。だんだんと見えてきた、教室とこれからクラスメートになる人達が見えて思わず心臓がばくばく言う。うう、緊張してきた…。
壇上に上がる様に言われ、黒板の前に立った。はい、とチョークを渡され、よく分からなくて先生を見れば、自分で名前書きたいだろ?と言われ素直に頷いた。黒板に名前を書いて、私は改めてクラスメート達を見る。
「今日からクラスメートになる、」
そう促され、一度礼をしてから私は口を開いた。
「イギリスから来た、みょうじなまえです。日本のことをまだよく分かっていないので、至らない所があると思いますが、よろしくお願いします」
そして、ざわついているクラスメートに笑顔を作った。…わ、悪口とか言われてない、よ、ね…?
先生が私の席を指定すると、女子が少しざわつく。場所は一番後ろの窓側から2番目。人気なのかな?確かに、イギリスでも後ろの席は人気だった。席まで行くと窓側の方の隣の
人が(こっちの方が机が近い)、よろしゅう、と言ってきた。
「?えーと?」
「ああ、これ関西弁言うて、大阪とか関西の方はこう話すんや。俺は大阪出身やから」
「へえ、そうなんだ。よろしくね」
関西弁か。…向こうでも訛りとかニュアンスとか違ったりしてくるのと同じかな?すると、私の紹介と少しの連絡でHRは終わったらしく。前の席の女の子が振り向いてきた。黒髪で内巻きのショートカットの子だ。
「次、理科で今日は移動なんだけど、よかったら一緒に行く?みょうじさん」
「あ、うん!お願いしてもいい?」
「いいよ。それとなまえちゃんって呼んでもいい?私は香月めいって言うの。よろしくね」
「あ、うん!ぜひ呼んでください。よろしくね」
「私のことは好きに呼んでいいよ。仲良くしてね」
そう言ってにっこり微笑んだ香月さん。私のことは自由に呼んでくれていいよ、と言った彼女に私はめいちゃん、と笑って呼んでみれば、可愛い!と叫ばれて抱きつかれた。…えっと、挨拶のハグ、かな?それにしても、元気で可愛い子だ。この子となら仲良くなれそうだなと思う。
「あ、えっと、めいちゃんに聞きたいことがあるの」
「なになに?授業とか?そこの丸眼鏡に聞かないで私に聞いてね?」
「丸眼鏡?」
「丸眼鏡ってなんやねん!」
私が聞き返すと、同時に隣の忍足くんが叫んでいて、確かに彼は丸眼鏡をかけている。私はなんだか面白くなって、くすくすと笑ってしまい。そうすれば、めいちゃんは私に抱きついて、
「忍足はどっか行ってて?私はなまえちゃんとラブラブするから」
「あんなあ、先に言うとくけど、クラスがたまたま3年間一緒なだけでそない毛嫌うんやめてくれへん?ただの腐れ縁やんか」
「あんたとなんか腐れ縁でも嫌ですー」
どうやら、仲が良いみたいで。
二人を見てれば、景吾とむねを思い出してしまい、なんだか無償に会いたくなった。
「あの、ごめんね?楽しく話してるところ…」
「え?こんな奴と楽しく話してないから全然気にしないで?」
「こんな奴ってなんやねん!」
「さっきの私に聞きたいことっての?」
「無視か!」
ええと。と私がとりあえずめいちゃんに頷けば、煩いといってめいちゃんが忍足くんに数学の教科書を投げつけた。
「私、どうしても会いたい人が居るの」
「会いたい人?氷帝に?」
「うん。その…もしよかったら手伝ってもらいながら、学校を案内してもらってもいいかな?」
「勿論だよ!」
笑顔で頷いてくれためいちゃん。そうすると、まずは理科だから行こっか、そういっためいちゃんにまだ教科書が届いてないから忍足くんに見せてもらわないと、と隣を見て思い、青筋をうっすら浮かべながらも無理矢理笑いを浮かべている忍足くんを見た。…クールな人だなと思ったけど、そんなことはなさそうだ。
120217
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