鳳が怪我をした。派手に転んだんや。それで、岳人が救急箱を部室に取りに行った。そうしいるうちに、レギュラー以外も集まってしもうて。それを跡部が練習に行かせた。俺は鳳を近くのベンチに座らせて、傷の具合を見る。鳳の右の脛は擦り傷でいっぱいで、赤い血をだらだらと流しとる。転んだ拍子に咄嗟に手をついたらしいが、これは酷い。後ろで心配そうに宍戸が覗いてるのが少しやかましい。ジローも珍しく起きとって、心配そうにこちらを見とる。


「…まあ、心配いらねえ。もうすぐ来るだろ」


跡部がそう言って、いつもの笑みを浮かべた。何言っとるんや、こいつは。救急箱を取りに行ったのは岳人やけど、治療すんのは俺やで…?そう若干不思議に思っとると、岳人が戻ってきた。何も持たずに。


「岳人、救急箱は?」
「…こいつ、連れてきた」


そう言って岳人の後ろから走ってきたのは、みょうじやった。手には白い箱を持っとる。俺は、俺とその他の集まってる奴等の顔が歪んだだろうということが、分かった。例外である跡部と樺地は分かっとった様に笑い、跡部が早くみょうじにやるように促した。それに大きく頷いたみょうじは鳳に駆け寄る。痛々しい傷を負っている鳳は、みょうじにやって欲しくないとも言えず、まあ鳳の性格上それはないやろう。鳳が座っている前に迷わず座り込んだみょうじは失礼、と鳳の足を持つ。


「もう洗いました?」
「転んだ後、来る時に洗ってたぜ」
「そう、」


跡部がそう返事をすれば、一度頷いたみょうじは持ってきた白い箱を開いた。部室にある救急箱より充実した中身。それらの中なら迷わずマキロンと茶色の瓶を取り出したみょうじは染みますよ、と忠告してからマキロンを吹き掛ける。痛そうに顔をしかめる鳳を心配そうに一度見上げてから、みょうじは綿棒で茶色の瓶に入ってる薬品を塗っていく。


「どうだ?」
「転けただけにしてはちょっと深いけど、大丈夫だと思う」


そうか、と小さく息を安心した様に吐いた跡部は俺達レギュラーにも後はいいからとコートに戻る様に言う。だが、誰一人として動かない。おい、と跡部が声を張ろうとすると、鳳の足に今度は黄色い薬を塗り終え、薄いガーゼを当ててからガーゼ状の包帯を巻いていくみょうじは笑った。なにがおかしいんや、と見れば、悲しそうに眉を下げて言うた。


「怪我が心配なのもあるだろうけど、多分、私がちゃんと治療するか気になるんだよ」


そう言ったみょうじにその場は静かになった。俺達がみょうじのことをあまり良く思っていないのは跡部には分かっとるみたいで、苦虫を噛み潰した様な顔をする。そして、小さく溜息をついた。


「…みょうじは、イギリスに居た頃の俺と樺地の世話をしてたんだ。怪我とかドリンクとか、体調管理、メニューの調整。そんなもんだな。俺達が日本に渡った後もその手の勉強はしてたらしい」
「えっ。ちょっと、景吾、それ誰に」
「おばあ様。なまえのおばあ様とティータイムする仲だろ」


鳳の包帯を巻き終わったみょうじは驚いた様に跡部に言うた。笑って答えた跡部。そんなのを見ながら、俺は、何より。『イギリスに居た頃の俺と樺地の世話をしてたんだ』との跡部の言葉。…と、いうことは、イギリスに居た頃はテニスを、応援しとったことになる。跡部達が居なくなった後もその手の勉強をしていたと。要するに、跡部達がテニスをする手助けをしとった訳や。なのに、どうして、テニスを否定したんやろか。
溜息をついたみょうじは、鳳を見上げてい言うた。


「どうですか?痛くない?」
「あ、はい。楽になりました」
「そう、よかった。今日から3日ぐらいは、後でこれ詰め替えて渡すから塗ってください。それ過ぎたらかさぶたが出来るだろうから、それまではこうして巻いてください」
「はい。ありがとうございました!」


そう笑顔で立った鳳。ほっと宍戸が息をついたんが分かった。すると、


「まだだめです」


鳳の右腕をみょうじが掴んだ。きょとんと、鳳は振り返り。あとのメンバーはそれを不思議に思ったやろう。樺地も少しおどおどとして。跡部だけが分かっていた様に腕を組んだ。


「えっと、あの…?」
「その手、見せてください」


そして、ああ、と納得した様に鳳は手の平をみょうじに見せた。そこは擦り傷がついており、みょうじは立ったまま、そこを消毒をしてからバンドエイドを貼った。そして、今度こそありがとうございました、と言った鳳に


「まだです。今度はそこ、座って下さい」
「…もう、どこも怪我してないですよ?」


そう不思議そうに返した鳳に、薄く跡部が笑みを浮かべた。それを見た俺はみょうじを見て、いいから、との少し強引な引き留めを不審に思った。すると、宍戸がおい、と声をかけた。


「もう、怪我してねえなら、練習してーんだけど」


それに宍戸を振り返って溜息をしたみょうじは、鳳の左手を指さした。


「本人も自覚症状が出てない様ですが、たぶん手首捻ってます。利き手ですか?」
「いや、鳳は右利きだ」


跡部がそう答えると、そう、とただ言ったみょうじは、


「利き手じゃない様ですから、しっかりと固定します。暫くは負担をかけない様にしてください」
「え、でも、痛くないんですけど…」


苦笑いで答えた鳳に、白い箱からスプレー缶を出しつつ答える。


「それでも、捻ってます。利き手じゃなくても、練習に支障が出ますよ?転んだ時に手をついたみたいですから、その時にやったんでしょうね」


そして、むね、と樺地を見ると、こくんと頷いた樺地が部室の方へと小走りに駆けて行った。樺地の呼び名やろうか。…崇弘やから、むね、か?それを跡部は、はっと笑って。


「樺地を使うなよ。あと、手際よくなったな」
「昔は景吾もむねも滅多に捻挫しなかったからね。この2年間、色々と勉強したし」


それに笑ろうて答えるみょうじが少し寂しそうに見えて。なぜだが知らんが、跡部とみょうじは何かを隠しとる気が、した。


120908
忍足視点です。
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