テニス部のマネージャーになりたい、と言った私におじ様は小さく、ほう、と呟いただけで暫く黙ってしまった。だが、おじ様は立ち上がり、ついてきなさいとだけ言って部屋を出てしまう。慌てて私もおじ様の後を追えば、おじ様は私がちゃんとついて来てるかを何度か確認しながら進む。…こういうさり気ない優しさは景吾もよく似ている。
そして、暫く歩けば、と言っても第二音楽室からそんなに離れていない。教室のプレートを見れば、第四音楽室と書かれていた。おじ様は扉を開いて、入りなさい、と言っただけで、おじ様が入った後を私も追いかける様に教室に入った。ぱたん、とドアを閉めて振り向けば、「第四」なのに、さっきの第二音楽室より広い部屋があった。
グランドピアノが設置されてる床には赤と金の落ち着いた感じの絨毯。その絨毯は部屋の床一面に広がり、部屋の中央にはソファが置かれていて、色は黒。革みたいで、おじ様は対面式になっているソファの片側に私に座る様に言った。そして、紅茶を入れてくれて、おじ様は向いに座った。


「飲みなさい」
「あ、いただきます」
「…どうして、テニス部のマネージャーになりたい?」


おじ様はそう言って私を真っ直ぐに見た。
私がテニス部のマネージャーになりたい理由。…そんなのは、決まっている。


「支えたいんです、景吾を」
「…あまり個人すぎる感情はかえって邪魔になる」
「私は、景吾の願いを、叶えて欲しいと思いました。全国を獲ること。それが望みだと言っていました。…私は、2年間、蚊帳の外と同じ状態でした。先生はご存知ですよね?」
「20歳の話か」
「はい。…私は、樺地と一緒に、景吾の傍に最後まで居ると約束しました。…私は、景吾に叶えて欲しいんです。その為になら、なんでもします」


そう言った私におじ様は小さく息を吐いて、ソファに背を預けた。


「…テニス部のマネージャーになるということは、レギュラーだけじゃなく、準レギュラーや平部員を含めた215名のサポートも入る。それもこなせなければならない」
「分かっています。…彼を、結果的に支えられるなら、なんでもします」


そう言えば、いいだろう、と笑みを作ったおじ様は立ち上がり、隅に置かれた机(と言っても第二音楽室にあったものより高いものだろうなあ、と一目で分かる)の引き出しから一枚の紙を取り出してもってきた。それを渡しながら、


「顧問である私の印は押してある。あとは、部長の印を押してもらって担任に出しなさい」
「ありがとうございます!」


そう言って受け取った私におじ様は言った。


「顧問と言えど、あまり私は跡部へ口を出せない。部員達に怪しまれる。樺地も同じ理由でだめだ。…どうせ、幼少の頃からの付き合いだ。なまえも身につけているだろう、跡部並の洞察力。それで跡部をサポートして欲しい。もちろん、他の部員もだ」
「…はい」


頷いた私におじ様は、まあそんなの無しでもなまえなら跡部相手ならいけるだろうと笑みを作るから少しムカついた。…そりゃあ、幼馴染のうえ、…好きだし、相手のことぐらい分かるけど…。そして、おじ様は、言った。
無いとは思うが、跡部と他の部員との扱いがあからさまに出た場合は、マネージャーから降ろすと。そんなことしない。…私は傍で支えたいだけで、媚を売るとかそういう概念は元々ないし、景吾ばかり構っていたら、逆にマネージャーになった意味がない。景吾の練習の邪魔をしたら、本末転倒だ。

でも、景吾にテニスを続けて欲しくないとも思ってる。
テニスを諦めて、治療に専念すれば、20歳でなんてないだろうと思われるから。…でも、これは景吾と景吾のおじ様おば様が決めたことだから、もう口を出さないことに決めた。
ただ、傍で支えられるだけで、私は充分だから。


おじ様から入部届を受け取ったあと、そのまま景吾のところ行ってそれを出せば、驚いていた。ただ、支えたいと言ったら、嬉しそうに、そして同じぐらい悲しそうに景吾は微笑んで、ただありがとうとだけ言った。私は思わず、景吾に抱きついてしまい、景吾は一瞬驚いた様だったけど、抱きしめ返してくれた。…場所が生徒会長室でよかった。



編入3日目で私は、テニス部のマネージャーになった。

120625
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