一生分の

※幸村、主人公ともに大学生

そして、親愛なる中村さんに捧げます!お誕生日おめでとうございます!




今日は知る人ぞ知る、私の誕生日である。勿論両親からは私の大好きな俳優の写真集が送られてきて、朝一番に電話でおめでとうを言ってもらった。ちなみに私の好きな俳優を私以上に好きなのがお母さんであって、この写真集だってどうせ自分のも買ってあるのだと思う。…でも、助かった。この前彼にこの俳優のカレンダーを捨てられたばかりなのだ。彼曰く、「俺がこんなに格好いいんだから、俺で充分でしょ」だそうだ。…確かに格好いいけど、あの人は必ずいつか病む。そう思った。
まあ、それはおいといて。絶賛独り暮らしな私は、勿論のことその電話で起きることになった。そして、大学では仲の良い友達に祝ってもらった。その友達の中にあの仁王や丸井も入っているのが気に食わなかったりもした。そして、お昼の時間。待ちに待った相手が、会いに来たのである。



「なまえ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、精市」



緩いウェーブがかかった様な髪型をした彼は、幸村精市。私の彼氏である。…この笑顔に心臓がやられそうになるけど、精市とは高2からの付き合いだ。この笑みだけにいちいち心臓を鳴らしていれば、ついていけなくなる。にこにこと笑いながら彼は言った。



「今日は、夜大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫だよ」



夜はそれはそれは楽しみにしていたのだ。約束こそしてなかったものも、精市は一緒に過ごしてくれるだろうし、私達の付き合い方から言って高級レストランは好かないから無いとしてもどちらかの家て夕飯を一緒に、ぐらいは期待していたのは事実だ。日頃大魔王の様な精市こそ、今日の様な日こそは優しいだろうと思っていた。…日頃は私をからかって遊ぶ様な本当に魔王みたいな奴だが。

なのに。私は、今。




「なまえさん?手止まってるよ?」
「あ、すいません!」



何故か、バイト先にいた。いや、何故も何も、精市があのあとなまえの家でお祝いしようとか言ってくれて、本当今日面倒くさくて大学サボろうとか思ったけど来てよかったなどと考えていた時。バイト先のオーナーからメールが来たのだ。そこには誕生日なのにシフトが入っていて変えようと思ったが、いきなりで変わってくれる人が居なくてだからごめんね元々今日は人が少ないから絶対来てね!的なメールだった。てかそのまま。…私はそれを見た瞬間凍りつき。そっと精市を伺えば、



「で?馬鹿が今回は何を仕出かしたんだい?」



恐ろしい程の笑顔で微笑んでくれていました。




素直に事情を話せば、夜の21:30まで私の家で準備をして待っていてくれるとのことだったが、ここで優しいとか思っちゃいけない。私のバイトが終わるのは、21:10である。それから自転車で猛スピードで家に向かっても、21:30には間に合うか否かである。祝う気があるのかと聞けば、俺がここまでしてあげてるじゃないと当たり前の顔で返された。ごもっともでございます。



「お疲れ様です!」
「なまえちゃん、今日お誕生日でしょう?よかったら」
「ごめんなさい!オーナー!人を待たせてるんで!」



今日は私の誕生日だ。何だかんだ言って。俳優にさえヤキモチを妬いてくれる様な人だ。帰ってるなんてことはないだろうけど、「気分が変わった」とかなんとか言って、虐げられたらたまったものじゃない。そして、私は自転車を走らせる。…事故らなければいいんだけど。







「お帰り。お疲れ様、なまえ」
「…た、ただいま」
「どうしてそんなに息を切らしてるんだい?」



満面の笑みでそう言ってドアを開けて私を迎えてくれているのは、紛れもなく精市で。彼のお気に入りの紺色のエプロンをして、すごく嬉しそうだ。…こう言ってはなんだけど、精市は私のことがすごく好きなのだから、あまり心配はしなくてもいいんだけど。



「…精市が意地悪言うから」
「だってなまえを苛めるのはこの上なく楽しいし、可愛いんだから仕方ないだろう?」



そう言って微笑んだ彼は、さながら執事の様に私の手を取って、さあどうぞと中へ促した。リビングに入ってみれば、いつも精市が泊まりに来る時以外使わないテーブルにクロスがひかれ、上にはこれから来るのだろうか、料理のためのお皿と、二人分のナイフやフォーク、そしてワイングラス。



「今日はなんてたって、なまえの誕生日だからね。俺だって頑張っちゃうよね」



にこにことそう言ってオーブンからグラタンを取り出して食卓に乗せた彼は、まだ動かずに俯いてる私を覗き込むようにしてから、ふふふと笑ってそっと抱きしめてくれた。




「お誕生日、おめでとう。あんまり可愛いと今襲っちゃいそうだから、泣いちゃだめだよ」



嬉しそうな声色で言う彼に、私はなぜか涙が止まらなくて。精市が優しい人だと知ってるけど、最近苛められすぎたのか。私の涙腺はめっきり弱くなった様で。だから今も泣いてしまっている訳で。別に、テーブルの中央に置かれて私によく見える様に開いている指輪ケースと、



「なまえ、結婚しよう。愛してる」



彼のこんな甘い言葉のせいではないのです。


111115
中村さんへ献上いたしました

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