TH | ナノ

14th key

例えば、の話で。
例えば、あいつが俺達の味方だとして。
例えば、あいつが俺達の敵だとして。

ならば、どうする?
そう考えてみた所で、何一つとして確実に現状を変えるものは存在しない。


「…それで?」
「とりあえず、ファイルは外国系の古典文学中心で、メールフォルダは空だった。真田、お前なら、どう捉える?」


幸村にそう聞かれ、俺は顎に手を当てた。今、話しているのは、ついこの間幸村が出向いてきた不二裕太のパソコンについてだ。不二に対しては、防犯に過剰になっているだけであると伝えたらしい。だが、それだけじゃあないだろう。


「…ファイルは趣味とも学校での学習とも言えるだろう。だが、空のメールフォルダに過剰のパスワード。…たまたま空だった可能性は除けば、何かやっているだろうな。メールが残ると困る何かを」


そう答えれば、そうだろうねと幸村は頷いた。
空のメールフォルダ。幸村が見た時に、たまたま空だった可能性はある。だがその可能性は、果たしてどのくらいだろうか?―おそらく、その可能性はとても低い。立ち上がりにいくつものパスワードをつけたパソコンの、またいくつものパスワードがかけられたメールフォルダ。これが空だったということは、普通なら、『それ程の防犯をやっておいて、尚消す程の大切なメール』を受け取っていると考えていいだろう。防犯、と言っても、ここまでパスワードをかけている、しかもそれが寮住まいの人物の実家のパソコンだ。…大切なメールではなく、実家の人に読まれたくない、つまり『読まれてはいけないメール』を受け取っている訳だ。
それから考えられることは、


「…こっちの世界に足を踏み込んでいるのかもしれない」


だが、気になるのは。手持ちのパソコンではなく、それが実家のパソコンということ。
幸村はそう言った俺に小さく頷いて、頭を抱えた。


「THとTTが今動いてなくて、本当によかった…」


ため息混じりに呟いてから、幸村はコップに入った紅茶を仰ぐ。俺もそれに倣う様にコップに入ったお茶を口に含んだ。すると、ふと思い出した様に幸村が言った。


「そう言えばね、真田。うちのクラスにお前のファンクラブの会長が居るんだよ」
「む?…それで?」
「なんか、ファンクラブっぽくなくて、普通の女子。普通にいい子だったよ」
「…そうなのか」


ファンクラブの会長、か。正直自分を好いてくれる人達が居るのは嬉しいのだが、女子にそういう意味で騒がれるのは、中学から続いている割には、苦手だな。そう思っていれば、


「…みょうじの友人でね。あと、仁王のファンクラブの会長も居るんだよ。ミーハーには変わりなさそうだけど、その子も普通の女子って感じ」


そうか、と頷こうと思って、仁王、と言うのに引っ掛かるものを感じた?ん?
するとそれに気付いた幸村がどうしんだい?と問う。


「…仁王、について、何か気になったことがあったのだが…」
「もうボケかい?」


そう、ふふふと笑った幸村は、そうだと携帯を取り出して暫く操作してから、俺にその画面を見せた。そこには、幸村、丸井、女子が2人並んでいた。背景から考えるところ、京都に研修旅行に行った時のだろうか。すると、片方の―背の高い方だ―女子を指差して、この子は丸井といい感じなんだよとまた笑う。


「あ、それでこの子がみょうじね」
「…こいつは…!」
「…真田、知ってるの?」


知ってるも何も。そうだ、思い出した。


「つい先日、昼休みに委員会の整理で風紀室に居たのだ。暫くすれば大体が済んでしまい、外に目をやった」


立海の校舎はコの字型になっていて、風紀室からは図書室が見える。すると、銀色の頭が図書室で見えたんだ。てっきり仁王がまた5限からサボるのでは、としっかり確認しようと見たのだ。そこには、仁王と柳生が居て、ダブルスのことでも話しているのかと思った。図書室の奥の棚のところは滅多に人が来ないからな。あまりこうして見るのは良くないだろうと視線を戻そうとした時だ。


「女子が居たんだ」
「女子…?」
「ああ。二人の間に立っていた。すると、仁王が頭に手をやり、柳生になった。二人は入れ替わっていた様だな。変装をとき、柳生が去って、仁王とその女子が二人になった」


その女子は、先程までと雰囲気が違っていて、仁王と対等に話していた。柳生が居た時は、なんと言えばいいだろうか、『普通』の女子、と言った感じだろうか?だが、仁王と二人になったら、その女子は、勝ち気、と言うか、真剣そうだったのだ。近くで見れば正確な雰囲気を掴めたのだろうが…。


「それが、みょうじと、何が…って、まさか!」
「ああ。その女子が、このみょうじだ。…幸村が、4月に言っていたな。みょうじには何かあると。…あながち間違いではないかもしれぬ」


121216
真田って喋らせるの難しい。泣きそうになった…。あと、真田にどうしても幸村を精市って呼ばせたくて仕方なくなるんだけども、どうしてだろ
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