TH | ナノ

12th key

屋上。呼び出しをくらい、一人の女子と対面する。用件を尋ねれば、顔を赤くしてその女子は言った。


「あの、…ずっと前から、好きでした!受け取って、ください」


そう差し出された包みと差しだす女子を冷めた目で見る。こいつは、何をずっと見てきたのだろうか。そう思いつつも、俺は眼鏡を押し上げて、


「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、」


『いつも通り』俺は、申し訳なさそうに笑みを浮かべた。




今日はマサにどうしても用事があって、マサを学校で探していた。蓮が居ないところで話がしたかったのだ。
…昨日、神の子の様子がおかしかった。蓮の名前を聞いたあたりから。蓮が何かしたのだろうか?いや、神の子自体がどうなろうと私には関係がない。だけれど少し引っ掛かるものがある。神の子がどうなろうと私にはどうだっていいことであり、というかテニスで負けろ。あと最近絵が好きって聞いたから、描いた絵破れろ。ガーデニングも趣味らしいけど、てか、女子力高くね?とかなんとも関係ないことを考えつつマサを探す。
masterである蓮が居ないところで話をしたかった。swilderであるマサに。
まあ、蓮が何するのも蓮の自由だし、まさかあの蓮が、THに損なことをするかと問われればノーである。蓮は、そんなお馬鹿さんではない。
昼休み。なかなかマサが見つからず、図書室に言って本でも漁ろうと向かっていると、図書室前の廊下で、目の前に銀髪を見つけた。この学校に銀髪なんて、マサと数人ぐらいしか居ない。その中でも髪を長く伸ばして後ろで縛っているのなんて、マサぐらいしか居ないんじゃないだろうか。まあ、後ろ姿と歩き方から言っても、あれはマサなんだろうけど。周りを見回して誰も居ないのを確認してから、マサに声をかけた。足を止めないマサに少し違和感を思いつつも、マサの隣に並ぶ。視線だけを寄越し、止まったマサに、もう一度名前を呼ぶ。どうしたんじゃと怪訝そうにしてから笑みを浮かべる、はずだ。でも、マサは少し鋭い視線を私へと送ったままだ。


「マサ、どうしたの?何か、あ、った…?」


あれ?何か、違和感、がある、んだけど。もう一度目を合わせれば、鋭い視線が見に覚えのないものであることに気付く。いくら幼馴染みと言えど、喧嘩したことだってある。私達幼馴染みは比較的と言うか、ぶっちゃけ言うとすごく仲が良い。じゃなきゃTHなんてやっていけないし。…喧嘩したことだってある。あるけど、その時に向けられる鋭い視線と、今私が受ける鋭い視線は、種類が、違う。まるで、他人を見るみたいな―。はっとなって、目の前の『マサ』に手を伸ばす。戸惑った様な視線をこちらへと寄越したままの『マサ』の左腕を掴んだ。


「…マサ、じゃ、ない」


マサにしては少し温かい体温と、握られて振り払わった『左腕』が、目の前の『マサ』が私の知るマサではないことを告げる。どういう、こと、?なんで、マサじゃない人が、『マサ』なの?え?そう混乱する私を見下ろしたままだった『マサ』は、


「…すいません。えっと、仁王君とあなたは、どんなご関係か伺ってもよろしいですか?」


『マサ』から発せられた、マサじゃない声にマサを見上げれば、目が合った。マサ、じゃなくて、


「…柳生、くん?」


そう私が呟けば、戸惑ったままの視線をこちらへ寄越したまま、柳生君は頷く。眼鏡の奥の彼の瞳は、揺れている。
目の前の『マサ』は、柳生君だった。

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柳生やっと話に参加します。