TH | ナノ

nineth key

「…久しぶり」


そう言って玄関口で笑った師匠に私は笑顔を浮かべた。


「お久しぶりです!師匠!」


そのまま師匠の手を掴んで部屋の中へと引き入れる。私の声に反応したマサと蓮がリビングから顔を出し、同じ様に笑顔を浮かべた。


「お久しぶりです、師匠」
「久しぶりじゃな、師匠。今日は師匠の好物作って待ってたんじゃよ」


そう言ったマサは慌てて、蓮は作ってないから安心しんしゃいと続ける。蓮はその隣でマサを横目で睨んでいて、でも師匠も蓮の料理は食べなくないのか、苦笑いを浮かべている。まあ、師匠の料理も下手だけど。マヨネーズだらけだし。でも、師匠の方が食べれるものってのは事実。


「…まずは食事にしましょう、師匠」


蓮はそう師匠に微笑んだ。私達THと、師匠。こうして4人が揃うのは、約2ヶ月ぶりのことだ。





「…それは、どういうこと?」
「俺達は、ハッキングとかそういうのは好かない。でも、時と場合によってはそういうのは存分に使うタチなんだ」
「時と場合って…」


意味が分からない、いや、分かってはいるが分かりたくないと言った表情の不二を俺は真正面から見据える。そう、今回はそういうことだ。


「…裕太君がやっていることが、ただ極端に他人を意識しすぎた防犯なのか、隠したい何かがあるのか、それは今の状態では俺には分からない」


だから、中身を確認して、調べたい。もしかしたら、何か危ないことに手を出しているのではないのか。知り合いの弟が、何か危ないことに巻き込まれるなんて。黙って見ていられる程、冷たくない。
そして、俺はノートパソコンのエンターキーを押した。一回黒くなった画面は青い背景を表示し、俺はそこに文字の羅列を叩いていく。裕太君のパソコンにアクセスをし、立ち上げる様にと命令を打った文字の羅列を最初から最後まで見直す。それを3回繰り返して、おかしな所がないことを確信し、エンターキーを押した。そして、裕太君のパソコンが立ち上がる。パソコンのディスプレイには、パスワードを打つ画面が表示されるが、それはそのまま違う画面へと変わる。立ち上げ画面が続き、ウィンドウズの画面が表示された。


「成功だ」


デスクトップに並んだいくつもの英語のファイル、そして見慣れないソフトたち。それを見て隣の不二が生唾を飲む雰囲気がこちらにも伝わる。俺は、裕太君のパソコンのマウスを握り、カーソルをファイルのひとつに合わせた。

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