TH | ナノ

eighth key

――――――
from;みょうじなまえ
title;なし
20XX/05/XX
――――――
景吾君へ
今日は師匠が来るので、よろしくです。
景吾君も謙也も、部活と聞いていたけど、なにか用事があれば私達の誰かにメールしてね(*´∇`*)

――――――


そう書かれたメール画面を見て、ああそうか、と納得する。今日は、あいつらの『師匠』があの部屋に来る日だ。別に会って都合が悪いと、師匠が言った訳ではないらしいし、会うことには問題はないはずなのだ。俺達―謙也と俺―が、THの師匠に会っても。それでも俺達はそれをしない。それは、俺達と、THの師匠に、面識があるから。

THは、ただのハッカーチームではないのだ。同時にただのなんでも屋でもない。あいつらには、別の唯一の意思がある。それが、THの師匠の願いだ。
あまり巻き込みたくないと、柳が俺達に語ったことは少ない。それでも、それだけで俺達がTHの師匠に会わない方がいい理由にはなるのだ。充分すぎるぐらいに。


THの師匠は、かつて『player』というコードネームで知られた凄腕のハッカーだ。その腕を借られ、アメリカのある会社でチームを組んでいたが、あるソフトが原因でチームは崩壊。ネット上でそのソフトの偽装、つまりは残った形跡を元に作った贋作がある。オリジナルの作り方は、THの師匠と、THのメンバーのみが知っている。贋作を無くす、そしてチームを崩壊に追い込んだそのソフトに関するものを無くし、それに関わったある組織を突き止めるのが、TH、チーム・Half Truthの本来の目的である。


「跡部ー?どうしたのー?」


眠そうな声でそう話しかけてきたのは、ジローだ。はっとなって、ここが部室ということを思い出す。部活が先程終わったばかりで、俺は着替えをする前に携帯に入っていたなまえのメールを見ていたのだ。


「いや、なんでもねえよ」
「跡部、これから皆で飯食いに行こうと思うんだけど、お前も行く?」


向日がそう聞いてくるので、それには頷く。じゃあ侑士以外は全員な!と言ったので、不思議に思い忍足を見る。こういう誘いをあいつはあまり断ったことがない。すると、同じ様に不思議に思ったらしい宍戸が忍足に聞く。


「今日はこれから約束があるんよ。堪忍なあ」
「彼女?忍足もやるねー」
「ちゃうて」


そう曖昧に笑った忍足は、そんないいもんやないよと答えた。従兄弟や、従兄弟。と言った忍足に違和感を感じた。謙也が?…確かに、今日四天宝寺の練習は休みだ。だけど、今日はTHの師匠が来るから、と言うことで謙也は白石あたりと遊ぶから、と言っていて東京に来るなど俺は聞いていない。…まあ、従兄弟に会いに来るなら、俺に話すことでもないか。



「これが、裕太君のパソコンだね?」
「そう。…でも、幸村、このパソコンには起動する時に3つのパスワードが必要なんだよ?」


僕がそう言えば幸村は知ってるよと笑顔で頷く。そして、持っていたバッグから1つCD-ROMを取り出した。それを同じ様に出したノートパソコンに取り込んだ。


「…なにを、するんだい?」
「今から、こっちから、そのパソコンにアクセスして、起動させる」

121023