TH | ナノ

fifth key


「…話って、なんだい?蓮二」


テニス部の練習を見るいつものファンに紛れて見るなまえを見かけ、思わず笑みを浮かべた。それから、マサが柳生と入れ替わっていたことをバラし、周囲が騒いでいる中、なまえが納得している様な顔をしているのにもやっぱり、と自分が予想した通りの表情に満足した。そして、俺はマサが丸井達と帰っていくことになったので、精市と弦一郎に話があると切り出した。すっかり制服に着替え終えていて、俺は向かいに座っている二人を見ながら、ぱらぱらとノートを捲っていた。痺れを切らしただろう精市がそう言い、弦一郎も俺を真っ直ぐと見てきた。俺は、捲っていたノートのあるページを開き、そしてそれを彼らに見えない様に持った。


「お前達は、研修旅行で俺に聞いたな。パスワードのことを」
「うん。そうだね」
「それのことだ」


不思議そうに首を傾げた精市。そしてまだ何かあったのかい、と言った。それに俺はただ笑みを浮かべた。それを肯定ととった二人は、それはなんだろうかという顔つきになる。


「なあ、精市」
「なんだい?」


俺は二人を見る。二人には、俺が開眼している様に見えているだろう。
静寂が訪れる。


「こちらでも、ネット上でも、駆け引きは欠かせないんだ。知っているか?」
「…どういう、意味だい?」
「どんなことでも自分の判断に責任を持たなければいけない。それもどちらの世界で言えることだ」
「何が言いたいんだ、蓮二」


弦一郎がテーブルに手を付き、真っ直ぐ俺を睨んで言った。
それだ。弦一郎、精市。そのあからさまな対応では、あの世界では生きていけない。お前達が、何をしているのか、コード付きなのか、それは分からない。だが、お前達が、こちらの世界に足を踏み入れていることは分かっている。
俺は長い息を吐き、


「お前達が何をしようとしているかは知らない。だが、あの世界では、少しの隙を狙われるぞ。気を付けた方がいい」


そうノートを閉じながら言った。驚愕に染まる二人の顔を見て、もう一度笑みを浮かべた俺は、姉さんが家で待っているからと腰を上げて荷物を持ち、部室の扉まで進んだ。ではな、と声をかけようとした時。蓮二、と声がかかる。


「なんだ?精市」
「…君は、何を知っているんだい?」
「ふっ。…何か、ではなく、何を、か」
「…蓮二、」


笑みを溢し、そう言えば、今度は弦一郎が。俺は二人の方に振り向いた。二人とも、俺が何を言い出すのかと構えている様だ。それにもう一度笑みを浮かべ、


「さあな」
「蓮二!」


用意しておいた答えを述べれば、精市が切実な声、顔で、立ち上がりながら言った。


「あの世界では、教えてと言えば答えを貰える訳ではないだろう?それに、今日は珍しく姉さんが夕飯を作って待っているんだ」


俺はそして、また同じように、ではな、と声をかけて、部室を出た。


120924
柳がのらりくらりと躱す感じを出したかったんですが…出てます?