TH | ナノ

third key



「おお、すごい人だかりだね」
「…人酔いする、こんなに居ると」


きゃあきゃあと言ってる女の子達がいっぱいで、中には立海の制服じゃない子も見えるし、てかあれ桜女じゃん!超お金持ち学校!とか、まあ、私服のお姉さんとか居る訳ですよ。男子テニス部コートの周りを囲っているフェンスの前に。いっぱい。きゃあきゃあ言って。…この学校の警備はどうなってるの、一体。興味深そうに笑った愛はもっと前で見ようよと言ってフェンスに近づいて行く。それだけならいい。

だから、なぜ私を引っ張っていくの!


「あれー?なまえちゃんと愛ちゃん。めずらしーね。見学?」
「うん。たまにはいいかなって」
「そっかー。あ、ここ、いいよ。隣来なよー」
「ありがとー」


ちょっ!!清水さん!いいから!なんでそんな優しいの!
可愛い笑顔でそう私達のスペースを空けてくれたのは、清水渚ちゃん。ちょっと今感動してたから苗字にさん付けしたけど、普段は私も渚ちゃんって呼んでる。渚ちゃんはふわふわの髪を二つでまとめていて、背は私と同じくらい。料理研究部の部長さん。ちょっと間延びした話し方をする可愛い子だ。そして。テニス部の真田君のファンクラブの会長だったりする。


「どう?今日も真田君は格好いい?」
「そりゃーもう!でも、まあ、私がここに居るのは、うちのファンクラブの中でも数少ない過激派の足止めなんだけどねー」


ため息混じりにそう言った渚ちゃんは、勿論真田君のファンだ。それは猛烈…熱烈?なんかすごい。本気で恋してるもん。でも、だからこそ、渚ちゃんは練習を邪魔する様な応援はしたくないと言ってる。それでも、こうしてフェンスの前に居るのは、先ほど渚ちゃんが言った様に、過激派のストップのため。真田君のファンクラブにはあまり居ないんだけど、ある人達のファンクラブは過激派揃いだ。


「うちも同じ理由でそんなところー」
「あ、光莉ー!あんたも来てたの?」
「来てたの?じゃないよ、全く。私は毎日来てるよ。うちの方は渚のとこと比べ物にならないぐらい馬鹿ばっかだから」


それが、今愛と話してる光莉の所。マサの、仁王雅治のファンクラブだ。あとは、丸井。この2つがすごい過激派が多い。まあ、普通に好きって子も多いって前言ってたけど。
軽く笑った光莉は私に視線を移すとすごい嬉しそうに笑った。あ、嫌な予感。


「なまえー!やっと来てくれたのね!」
「いや、あの、」
「こっちよ!仁王君見て!あそこでダブルスやってるから!」


渚ちゃんの隣に居た光莉は私の手を引っ張って引き寄せ、コートを指差した。その先では、マサと柳生君、あとは丸井とジャッカル君が試合形式で練習していた。へえ、すごいな、と思っていれば。なんだかよく分からない違和感を感じる。


「ねえ、光莉」
「ん?どうしたの?」
「あの二人、本当に仁王君と柳生君?」
「え?」


私がそう聞けば、不思議そうに聞き返してから光莉はもう一度マサ達を見て、当たり前じゃないと言ってみせた。…なんだか、変な感じするんだけど。そう思っていれば。

ざわ、と周囲がどよめいた。


「え?なに?」
「あの二人、また入れ替わってたみたいー」
「え?どういうこと?」


確かに、コートの中に居るマサと柳生君は、それぞれウィッグみたいの持ってるし、ラケットを持ってる手がお互いの利き手と逆だ。事情を聞こうと光莉を見れば、興奮した様に見入ってるから、だめだ。


「渚ちゃん、どういうこと?」
「仁王君と柳生君の入れ替わりは知ってるでしょー?」
「うん、まあ。あれだよね、仁王君が柳生君になってて、柳生君が仁王君になってプレイするの」
「うん、それー。それ今やってたのー」
「…ええっ!?」


嘘。マジで。もっとこう、聞いてはいたけど、そんなに精密だとは思わなかった。私とか蓮なら一目で見破るぐらいのクオリティかと…。


そっか、違和感は、これか。


120826
お友達登場です。ちなみに光莉(ひかり)ちゃんの苗字は三浦です。