TH | ナノ

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あのあと。謙也と別れて、ホテルに戻る際。
蓮に、なぜ謙也が並べた人の名前をメモしなかったのか聞けば、眉間にシワを寄せた。あれ、私、何か悪いこと聞いたのかな。そう思えば、雅治が言った。


「全員、四天宝寺テニス部のレギュラーの名前じゃよ」




仁王君に聞かれ。俺が答えたのは、全員四天宝寺のテニス部のレギュラーの名前やった。仲間を疑いたくはない。でも、俺のことを知っとって。加えて、俺のパソコンの回線使ったっちゅーことは、すくなくとも、直接俺のパソコン触ったことある奴か、やり取りしとった奴で。そうなると、

白石蔵ノ介、一氏ユウジ、金色小春、千歳千里。そして、財前光。

この5人がいっちゃん怪しいって思った。
THの3人に伝えた時は。なまえちゃんは気付いとらんかったけど、柳君と仁王君は。やっぱり気付いとって。苦虫を噛み潰した様な顔をしとった。



さて、有明を部屋がある階まで送り、(規則に寄って男子は女子の泊まってる階には入れない。)みょうじのことを考えた。もっとちゃんと言うなら、蓮二とみょうじのことを。先に真田には帰ってもらった。俺はエレベーターを降りて、ゆっくり階段を上がりながら考えることにした。すると、一個上の階の踊り場―まだ女子が泊まる階だ―から声が聞こえた。


「うん。分かってる。…うん。黙っててごめんね。…うん。大丈夫だったよ」


みょうじだ。咄嗟に俺は自分がみょうじから見えない位置に移動し、息を潜める。少し様子を見る様に見れば、みょうじは壁によそりかかっていて、左手首にはビニール袋がかかっている。右手で電話を持っていて、左手だけで腕を組んだ状態を作っていた。
そして、雰囲気が違った。浮かべている笑みは、見たことがない笑みで。雰囲気も、俺に対して、態度を変える前も、変えた後も違った。少し悲しそうに眉を下げて言うみょうじの声はいつもより少しだけ透き通った様に感じられて、それでいて悲しそうだった。


「うん。…ありがとう、うん。…うん、おやすみ」


そう言って電話を切り上げたみょうじは、電話を折りたたみ、はあ、と小さくため息を溢した。そして、許さない、と低い声で呟いたあと、廊下側へ入って行った。

…一体、誰と電話してたんだろうか。
何を、許さないんだろうか。

なぜか、不思議でたまらなく、気になって仕方がない。


120805
短くてすいません。もうそろそろ研旅編終了です