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私は携帯を開いたまま、固まってしまったのが分かっていた。心配そうに謙也が、そして焦った表情でマサが、こちらを見ているのが分かっていた。蓮が私の肩に手を置いたのも分かっていた。…これで、謙也が『ピエロ』だというのには、1つしか選択肢は残っていない。『ピエロ』が、2人以上のチームで作られていて、そのメンバーが謙也だということ。
『こんばんは。
『ピエロ』でございます。まずは返信、ありがとうございます。
皆様のご質問にお答えしましょう。
まずは、yes。
私は高校生です。
噂通りでしたら皆様と同じ、となります。
yes。
東京住みではないですが、構いません。
本当にお会い出来るなら、
8月に用事で出て行くのでその際ではどうでしょうか?
yes。
紛れもなく私は一人で活動しております。
yes。
協力者は皆様もご存知の「スナイパー」です。
しかし、「スナイパー」の方々は私の行動全てを理解してはいません。
私がこうして連絡を取ってることも知りません。
no。
この場合示される『罪』が、クラックなどでしたら、
犯したことはございません。
いいお返事お待ちしております。
ピエロ』
私は目を一通り通してから、そっとため息をついた。そして、無言で差し出された蓮の手にそのまま携帯を渡した。謙也はどうしたん?とマサに聞いていて、マサは少し固い笑顔を浮かべて、さあのうとごまかしている。
…この、『ピエロ』、馬鹿なのかな、とふと思った。私達が示す「罪」が、ただ単にクラックを指すと思っているのだろうか?そう思っていれば、蓮がそのままマサに携帯を渡した。受け取ったマサは慎重な顔つきでメールを読んでいく。蓮を見れば、大丈夫と言いたげに安堵の笑みを浮かべ、そのまま頷いた。そしてマサも頷いた。ああ、これで、ただ1つだけ、確認さえすれば。
「…なんなん?なんかあったん?なあ!」
「…そのことなんだが、謙也。一つ、聞きたいことがある」
私達の様子が普通でないと感じ取っていたであろう謙也が声を大きく張り上げた時。蓮が言った。私とマサに視線をやり、私達はそれに頷いた。
あと、一つだけ、確認すれば。
私達はまた、無条件に謙也を信用できる。
「?聞きたいこと?」
「そうじゃ。…お前、自分のパソコンはどうした」
…マサの、口調が変わった。
マサは、マサが小学3年生の時に一家で神奈川に越してきた。それまでは九州地方に居たと聞いているけど、詳しいことは内緒だそうで、知らない。
今は、建築家のお父さん、私達の両親と同じエンジニアのお母さん、兄さんのチームのお姉さん、東京のサッカー名門校に通う弟君の5人で一応マサの家に住んでいる。一応、と言うのは、建築家のお父さんは世界的に有名で世界を飛び回る方だし、同じくお母さんも。お姉さんは兄さんと同じであまり帰ってこない。弟君は学校の寮に住んでいるから。実質は私と同じで一人暮らしと同じ。だから、隣の家である私の家に泊まったり、私がマサの家に泊まったり、向いの家である蓮の家に泊まったりと私達はほぼ一緒だ。ちなみに蓮のお母さんだけが働いていないから、蓮の家にお世話になることが多いけど。
…まあ、だから、マサはもう昔居た場所より、今居る神奈川に住んでいることになる。そして、好んでいつも使っている方言を以前使っていた年月より、標準語圏に暮らす年月の方が長くなる。
それでも、マサは以前の方言を好んだ。
小さい頃から使っていた方言の方が、『詐欺師』として居られる、と―。
マサが、標準語を使う時。それは、『詐欺師』でなくなる時。
「え?俺のパソコン?」
「そう。どうしたんだ?」
「…てか、口調違、あ、はい、言います。
俺のパソコン言うと、俺が個人的に使ってるのでええやんな?」
「そう。そのパソコンは、どうしたの?」
「俺のパソコン、1週間前から修理出してんで?」
そう謙也が怪訝そうに言う。私はそれに、少しの驚きと喜びを感じた。蓮はほう、と小さく呟いて。
「その証拠はあるのか?」
「ん?ああ、あるで。ほら」
そう言って謙也は財布を取り出して、あったあったと一枚のレシートを出した。マサがそれに手を伸ばした。そのままそれを間近で確認する。そして、一回こくん、と大きく頷いた。それはそのままテーブルの上に戻された。
「なんか中の回線ダメになってしもうたみたいでなあ。修理出してからは携帯と親父の診療所のパソコンしか触ってないんよ。メールとかしたん?」
そう言った謙也に、私は何度目になるか分からないため息をついた。そして、視界が歪むのを感じた。
―ああ、謙也は、『ピエロ』なんかじゃなかった。
120721
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