TH | ナノ

17th load


俺が、あの子達に目をつけたのは、技術やら他のものではなく、何よりの純粋さだった。技術や知識を教える度に輝くあの目に、惚れた。あの子達は俺のことを「先生」と慕ってくれた。やがて「先生」が「師匠」と変わった。キラキラとしたあの目は未だに変わらないけれど、蓮二も雅治もなまえも。俺のことを一度も疑わなかった。そして、こども達になんというものを教えてしまったんだろうと、心内苦しくなる俺に、あの子達は言った。自分達が望んで手に入れたのだから師匠のせいではない、と―。
…それが、どんなに嬉しかったことか。これ以上、罪を重ねないと誓ったあの日から、俺は動けなかったままじゃなかったと。俺は、すごく嬉しかった。


あの子達は、がんじがらめで動けなかった俺を、救ってくれた。


だから、あの子達のためなら、俺はなんでもしよう。
それこそ、クラックだって、やったっていい。あの子達のため、ならば。


メールの返信は来た。
あの子達は近況をこまめに教えてくれる。俺が「あのこと」を頼んだせいでもあるけど。本当は自分でやるべきだったと分かっている。だけど、「あのこと」は、あの子達に任せるのが一番だと。自分では冷静な判断が出来ない場合があるし、あの子達なら上手く立ち回れるし、まさか     も俺が「あのこと」を違う人間に頼んでいるとは思ってもみないはずだ。
そして、あの子達のメールには、『ピエロ』のことが書かれていた。…他にも研修旅行やクラス替えのことも書かれているが。…なまえは神の子と同じクラスなのか、災難だな。

…『ピエロ』、か―。
ふざけた名前だ。まあ、俺が昔名乗っていたHN(ハンドルネーム)も変わらないか。
そう俺は笑みを浮かべてから、コーヒーを一口飲んでから、パソコンの電源を入れた。





「で?ほんまはどうしたん?顔見たかったちゅーだけやないやろ?」


マサが電話を終えて帰ってくると、ちょうど頼んだドリンクたちが届いた。そのあとはいろんな世間話をしていたけど、とうとうそう言って頬杖をついた謙也。…メールが来るまでは謙也に『ピエロ』のことを話すことは出来ない。


「…ほれ、これ」

そのために私達が用意したものはいくつかある。その一つをマサがポケットから出して、ぴらぴらと揺らした。それを見た謙也は不思議そうに私や蓮の方を向いた。蓮はため息をつきながらコーヒーを一口飲んでから、謙也に説明を始めた。


「…お前と約束しただろう。TTの一片でもいいから見たいから、何か手に入ったらよろしくとお前が言ったんだろう」


そう言えば、そうやったなあと笑ってみせた謙也に、私は心が痛む気がした。視界が、微かに歪んだ気さえした。この、謙也が、もし、本当に『ピエロ』なのだとしたら。…どうしよう、本当に、そうだったら、どうしよう。私の感情に気付いた様に、はっと息を飲む様な気配を感じた。マサだ。マサを見れば、マサは困った様に眉を下げて、それから、ポケットから携帯を取り出し、テーブルの上に置いた。それから、つんつん、と自分の携帯のディスプレイを指さす。私も同じ様にTH用の携帯を取り出し、そして、ディスプレイを確認した。…メールを送ってから、もう、34分が経過していた。


「…それと、こんな噂を聞いた」
「噂?」
「そうじゃ。景吾が調べてきたんじゃけどな」


マサはそう言って、にやりと笑った。…詐欺師の、顔をしてる。謙也を騙しているとも言えるこの状況は、やっぱり、私だけでなく、マサも、きっと蓮に対しても堪えるものになっていることが分かる。

そして。その時。携帯が震えたのを感じた。


「っ!」


思わず肩を揺らした私を謙也が訝しげに見た。マサと蓮の鋭い視線が携帯へと注がれる。私は、そっと、携帯を手にして、そのまま開いた。新着メール、1件の。文字。
そして、メールを開いた。…これが、『ピエロ』からならば。…謙也が、『ピエロ』だって言うのは、なしに、なる。


『こんばんは。
『ピエロ』でございます。まずは返信、ありがとうございます』


120707
最初の部分はTHの師匠視線です。この師匠もテニキャラなので、よかったらご予想を。