TH | ナノ

12th load

謙也と待ち合わせしているのは、俺達が宿泊しているホテルの近くにある喫茶店だ。夜8時を指定とした。…まあ、俺達は年相応に見られないことが多いから、大丈夫だろう。強いて言うならば、なまえがギリギリいけるかいかないか、だ。

そして、俺達THの待ち合わせ場所は1階のロビー近くのエレベーター横の階段。



そして、なまえとマサを待たせたまま、廊下で精市と弦一郎と対峙していた。


「ああ、蓮二。良かった。これから君の部屋へ行こうとしてたんだよ」
「どうかしたのか?」


ラフな灰色のジャージを履き、白に黄緑色のロゴ入りのTシャツを着て、その上からいつも通り下のズボンとセットであろうジャージの上着を羽織り、笑顔とともに右手を軽く上げた精市と、その後ろで、黒のジャージのズボンと無地のTシャツを着て、手を組んで壁に寄りかかったままこちらを見ている弦一郎。
俺がそう問えば、真剣そうな顔になった精市が聞いてきた。


「…どうでもいいことかもしれないんだけど、」
「?ああ」
「…蓮二は、パソコンを立ち上げる際、パスワードをセットするなら、いくつ入れとく?」
「…パスワード?」


そう俺が聞き返すと精市は頷いてみせた。
…なぜ、そんなことを俺に聞くのだろうか?何か考えがあるのだろうか。それとも、俺がその関係だということに勘づいたのか?
そう思考を巡らせていれば、蓮二?と不思議そうな声が聞こえた。はっとなって精市達を見れば、どうかしたのかと不思議そうに、そして俺を心配そうに見ていた。そして、俺はそれを見て、どこか安心した。

俺が、俺達がTHだとはバレていない。疑ってすらいない。

そういう、得体の知れない根拠が持てた。参謀と、データマンと呼ばれる俺が、確率も出さずに何をと思うかもしれない。でも、俺は、そう、思いたかっただけだと自分で理解している。


「…そうだな。俺なら一つ、つけて2つだろうな」
「そう。…パスワードの長さは?」
「長さ?…そうだな、あくまでも、俺の場合だが」


そう言って俺は笑みを浮かべる。


「実はデータはノートではなくパソコンに入っている量の方が多い。だから、立ち上げる際には2つ。長さは6桁と8桁。フォルダにもいくつかパスワードはかけている」
「…そう、ありがとう」


そう神妙な顔で言った精市とその後ろで相変わらずの体勢で顎に手を当てる弦一郎。…何かあったんだな。そう思いつつも、時間が迫っていることを自覚している俺は早々とここから切り抜けたかった。


「要件はそれだけか?」
「ああ、うん。ありがとう」
「いや」


そう言って、じゃあなと俺は歩き出した。すると、ねえ、と精市から声がかかる。振り向く感じでその場で止まった。


「どこかへ行くのかい?まさか、そんなジャケットに外出用と言ったパンツで寝ないよな?」


そう言った精市は俺の格好を指さす。
精市が言った通り、俺は白のVネックのカットソーに黒のジャケットを上から重ね、下は黒のパンツだった。ちなみに首元には滝がお礼にとくれたTH仕様のネックレスをつけていた。
その問いに俺は笑みで返した。


「ちょっと野暮用があってな」

120609